2024

03/05

A群溶血性レンサ球菌(溶レン菌)感染症

  • 感染症

内藤 博敬
静岡県立農林環境専門職大学 生産環境経営学部 准教授
日本医療・環境オゾン学会 副会長
日本機能水学会 理事

新微生物・感染症講座(12)

2023年12月21日、東京都は1999年の統計開始以来初となる、A群溶血性レンサ球菌による咽頭炎の流行警報を出しました。時を同じくして発熱した同級生から、体調が悪く病院へ行ったところ、A群溶血性レンサ球菌に感染していたと報告を受けました。小学生が冬場に罹るケースが多いこの感染症ですが、大人に感染しないわけではありません。また、発症に至る詳細は不明ですが、劇症化する場合も報告されています。今回はこのA群溶血性レンサ球菌感染症についてご紹介しましょう。

溶血性レンサ球菌とは?

レンサ球菌とは、その名の通り、直径約1µm程度の球菌が数珠つなぎに連結して鎖状(連鎖)となった、グラム陽性(細胞壁のペプチドグリカン層が厚いタイプ)の細菌です。虫歯の原因にもなる口腔レンサ球菌や肺炎球菌のように、われわれの身体の中にはレンサ球菌の仲間が多数常在しています。

冬および春から初夏にかけて感染を広げる感染症の一つに、A群溶血性レンサ球菌(溶レン菌)感染症がありますが、この原因菌も1~3割のヒトが保菌していると考えられています。

溶レン菌感染症の原因となる細菌は、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes )ですが、溶血毒を出すタイプを溶レン菌と呼んでいます。化膿レンサ球菌は、溶血毒素、発熱毒素(発赤毒素)、核酸分解酵素など、私たちにとっては毒として働くタンパク質を産生することが知られています。

疾患名にもなっている溶血毒は、文字通り血(赤血球)を溶かす毒素です。化膿レンサ球菌の出す溶血毒素にはα毒素(不完全溶血)、β毒素、γ毒素(非溶血)がありますが、β毒素が最も強い溶血毒(完全溶血)です(図1)。

図1 化膿レンサ球菌の産生する毒素の概略

疾患名の冒頭には、他の細菌症では見慣れない「A群」という冠が付いています。レンサ球菌の細胞壁には特殊な多糖体があり、これによってA~V群(IよびJは除く)に分けられています。前述のβ毒素を出すのは、A 群、B 群、C 群、G 群、F群レンサ球菌ですが、ヒトへの感染で問題とされてきたのはA 群とB 群で、ほとんどがA群β溶血性レンサ球菌感染症(group A streptococci:GAS)です。

B 群β溶血性レンサ球菌感染症(GBS)は、腸や膣などに常在する常在細菌の一つで、通常は無症状ですが、妊婦の方が感染している場合に出産時の産道感染などによって新生児がGBS感染症を起こすことが知られています。

溶レン菌は人食いバクテリア?

溶レン菌感染症が注目を浴びたのは1980年代後半のアメリカで、成人に化膿レンサ球菌感染と考えられる敗血症性ショックが相次いで報告されるようになり、日本でも1992年に同様の症例報告がありました。化膿レンサ球菌による敗血症性ショックは、レンサ球菌性毒素性ショック症候群(streptococcal toxic shock syndrome:STSS)あるいは毒素性ショック様症候群(toxic shock like syndrome:TSLS)と呼びますが、これが「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」です。1990年代の日本における罹患者は年間20人程度とされていましたが、年々感染者数が増加して近年では年間約100名の症例が報告されています。成人への化膿レンサ球菌感染が必ず劇症化するわけではありませんが、基礎疾患の有無に関わらず劇症化症例が報告されており、劇症化のメカニズムはまだ分かっていません。

症例が増えたことで、1994年にマスコミが劇症型溶血性レンサ球菌感染症を取り上げ、その時に「人食いバクテリア」と呼んだことで、その後A群溶血性レンサ球菌だけでなく、ビブリオ・バルニフィカスやエロモナス属など、急激かつ劇的に病態が進行する劇症型感染症で、手足の急激な壊死(壊死性筋膜炎)を引き起こし、ショック症状や多臓器不全で感染者を死に至らしめる細菌感染症の俗称として使われ続けています。

溶レン菌感染症の症状、治療と予防

前述のように、原因菌がさまざまな毒素を産生するため、この菌が侵入した場所や感染した組織によって症状もさまざまです。中でも小児を中心に多く報告されるのは、急性咽頭炎です。溶レン菌による急性咽頭炎では、感染者の咳やクシャミによる飛沫感染が主な感染経路で、潜伏期間は2~5日です。突発的な発熱と倦怠感や咽頭痛、時に嘔吐を伴ういわゆる感冒症状が顕われ、咽頭壁の浮腫や扁桃の浸出が見られる扁桃腺炎へと進みます。小児では、軟口蓋の小点状出血や苺舌が見られることもあります。また、日焼け様の皮疹が出現する猩紅(しょうこう)熱も、溶レン菌感染によって起こる症状です。

病原菌の診断は、咽頭をぬぐって菌を分子培養することで行われていましたが、培養には時間がかかるため、現在では抗原(病原体)を特異的に検出できる迅速診断キットが汎用されています。治療には、ペニシリンなどの抗生物質が有効ですが、体内の溶レン菌を完全に除去するまでの10日間は、確実に投与する必要があります。

おわりに

溶レン菌の予防は、感染者との濃厚接触をしないことが重要なので、体調がすぐれない時には出勤、登校、登園を控えること、そうした環境づくりが大切です。また、他の呼吸器感染症と同様に、手洗い、うがいやマスクの着用も、感染予防の効果が期待できます。これまでの経験から、冬のピークが過ぎても春先に再び溶レン菌が流行する可能性はありますので、しっかりと予防しましょう。

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