2024

04/03

いざというときの備えはできていますか?

  • 在宅医療

四街道まごころクリニック
院長
梅野 福太郎

新連載:在宅医療(1)

Aさんは地元を離れ、夫婦と子供の4人で生活していました。Aさん夫婦は、日中は仕事に出かけ、夕方は子供の塾の送迎などで忙しい日々を過ごしていました。地元で暮らす両親はご健在で、お父さんは脳梗塞で麻痺が残って自宅での生活が中心ながらも、お母さんのサポートのもと元気に過ごしていました。
そんな日常生活の中、Aさんに1本の電話が……。
電話に出ると、お母さんでした。
「お父さんが昼から調子が悪いと言うので、熱を測ってみると38度なのよ。病院まで足(移動手段)がないし、いくつかの病院に電話をかけてみたけど、対応ができないって言われてどうしようかと思って……」
それを聞いたAさんは、途方に暮れてしまいました。

読者の中には、こういう経験をされた方もいるのではないでしょうか。
本連載では、あまり一般の人には知られていない“訪問診療”のサービスなどについて紹介していきたいと思います。

訪問診療の対象者や診療内容、費用

はじめまして。千葉県四街道市・千葉市若葉区を中心に訪問診療を行っている、四街道まごころクリニックの院長、梅野と申します。今回から訪問診療など在宅医療についてお話しします。

在宅医療は、住み慣れた場所で生活し続けるためにサポートをするサービスです。訪問診療(医師)、訪問看護、訪問リハビリテーション、訪問歯科・歯科衛生士、訪問薬剤管理指導(薬局)、訪問マッサージ、訪問介護(ヘルパー)、訪問入浴などさまざまな訪問サービスが受けられます。

訪問診療や訪問歯科など一部のサービスは医療保険ですが、その他は介護保険で提供されます。
訪問診療対象者は「寝たきりまたはこれに準じる状態で通院困難なものに対して行われる」とされています。必然的にがんなど重い病気に罹患したり日常生活の動作が低下したりした方が対象になります。

訪問診療の具体的な診療内容は、診察して処方、血液検査や尿検査、超音波検査、心電図などの検査。インフルエンザや肺炎球菌、新型コロナウイルス感染症のワクチンなどができます。

治療的な処置は、医療用麻薬(モルヒネ)を含めた点滴や高カロリー輸液、経管栄養(胃瘻)、人工肛門(ストーマ)、在宅酸素、気管切開、人工呼吸器、腹腔穿刺、褥瘡(床ずれ)などに対応できます。

また、目の不調で眼科、湿疹ができたら皮膚科、膝が痛くなったら整形外科などそれぞれ通院するケースもあると思います。その場合は、初期対応やその治療の継続を担うこともありますが、病院と全く同じ治療ができないこともあります。また、常に医療従事者が自宅にいるわけではないので、あくまでも介護の主体はご家族になります。それでも訪問診療の契約をした方に何かあった際は、原則24時間365日、まずは連絡・相談していただき医師から必要な指示を受け、必要に応じて訪問看護など他のサービスや医師の往診を受けられるという体制を取っています。

なお訪問診療の費用は月1〜2回の定期的な訪問診療を行い、24時間365日の緊急対応の契約のもとに医療保険1割負担のケースであれば、月々5,000~7,000円程度の自己負担で依頼することができます。

訪問診療のサービスは希望すれば誰もが受けられるものではありませんし、毎月の費用負担もありますが、重篤な病気を抱えたり、身体が低下したり定期的な通院が難しくなった場合は初期対応をしてもらうことができるので、訪問診療を検討しても良いかもしれません。

介護保険制度は、高齢者を社会全体で支える仕組み

次に介護保険について説明します。
介護保険制度は、介護が必要な高齢者を社会全体で支える仕組みであり、どなたも40歳から保険料の徴収が始まり介護サービスは65歳以上(一部の疾患で40歳以上でも利用可)で利用できます。

例えば、次のようなサービスを受けたり利用したりすることができます。

訪問介護:食事や排泄の介助を行う「身体介護」や、買い物代行・家事全般のサポートを行う「生活援助」を受ける。
デイサービス:送迎ありデイサービスセンターへ。食事や入浴、リハビリテーション、レクリエーションなどのサービスを利用する。
ショートステイ:食事や入浴、リハビリテーション、レクリエーションなどのサービスをお泊りで受ける。

その方に合ったサービス内容を、プラン作成を担当するケアマネジャーと共に作成し利用することになります。

なお利用には申請が必要なのでお困りのときは、お住まいの市区町村の高齢者支援課など介護保険窓口に相談すると良いでしょう。

もし、Aさんのお父さんが訪問診療の契約をしていたら?

さて、冒頭で紹介したAさんのお父さんがもし、訪問診療の契約をしていたらどうなるでしょうか。

「お熱があるのですね、分かりました。10時に訪問しますね。慌てずにお待ちください」。
訪問診療の契約をしている方は連絡があれば往診し、新型コロナウイルス感染症やインフルエンザの抗原検査を行い、発熱の原因を診断し、そのまま自宅で治療ができるかどうかの判断をします。もし自宅療養が困難と判断したら受け入れ先病院を調整し、必要であれば救急搬送という対応をします。

遠方のAさんには、地元のご両親の元に向かい対応を引き継いでいただくこともありますが、少なくとも初期対応を在宅医療に委任することで落ち着いて行動ができるのではないでしょうか。

また、搬送となって事なきを得て帰宅した後も、お父さんの介護を充実させるために一時的に訪問介護(ヘルパー)に頻回に入ってもらい回復を後押しすることができるかもしれません。

Aさんの例は、(特定の人の話ではなく)よくある事例の一コマですが、次回以降は具体的に個別ケースを示してみたいと思います。

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