2024

04/08

日本版ACPと言われるガイドラインの取組みと課題

  • 地域医療

  • 北海道

横山 和之
北海道社会事業協会 岩内病院 院長

地域医療・北海道(52)

過疎地域における医療、福祉、行政の関係

全ての領域(医療関係者含め病院に関わる業界)で人材不足が叫ばれている過疎地域において、かろうじて人材が確保されているのは、地方にある中小の地域病院ではないでしょうか。そこには、診療報酬上の決まりもあり、入院患者数や病床数などに合わせて、医師、看護職、その他のコメディカル、清掃、リネン業務、出入りの業者など一定の人数が地域の病院を中心に確保されています。そのため、過疎地域では、何か福祉や医療で新たな取り組みをするためには、病院主導でなければ進まないことが多々あると思っています。都会では、医療以外の福祉関係の活動や医療・福祉・行政での協働活動などは、行政主導や福祉関係主導で進むことが多いと思いますが、都会のモデルを地方にそのまま当てはめると大抵の場合は、人材不足で進まない、もしくは、進んでも目標を達成できないことが見受けられます。

そこには、地方の行政などでは、もともとやらなければならない業務内容が都会と同じだけあり、また、高齢化が進行しているために、業務内容は同じでも業務量が多くなっていることがあると考えられます。『やりたいけど、できない』というのが、行政や福祉関係者の本音ではないでしょうか。

こうした地方の人材不足が後述する「アドバンス・ケア・プランニング(以下、ACP)」の取組みにも影響しています。

ACPの概念

さて、厚生労働省では、高齢多死社会の進展に伴い、地域包括ケアの構築に対応する必要があることや、英米諸国を中心としてACPの概念を踏まえた研究・取組が普及してきていることなどを念頭におき、「人生の最終段階の決定プロセスに関するガイドライン」を平成30年3月に改訂し、「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」と名称変更しています。このガイドラインには、次のようなことが書かれています。

「医師等の医療従事者から適切な情報の提供と説明がなされ、それに基づいて医療・ケアを受ける本人が多専門職種の医療・介護従事者から構成される医療・ケアチームと十分な話し合いを行い、本人による意思決定を基本としたうえで、人生の最終段階における医療・ケアを進めることが最も重要な原則である。また、本人の意思は変化しうるものであることを踏まえ、本人が自らの意思をその都度示し、伝えられるような支援が医療・ケアチームにより行われ、本人との話し合いが繰り返し行われることが重要である。さらに、本人が自らの意思を伝えられない状態になる可能性があることから、家族等の信頼できる者も含めて、本人との話し合いが繰り返し行われることが重要である。この話し合いに先立ち、本人は特定の家族等を自らの意思を推定する者として前もって定めておくことも重要である」。

この中で主に次の4つのことが言われています。

1.多専門職種が参加すること
2.本人が意思決定すること
3.話し合いは一度ではなく繰り返し行うこと
4.家族等も参加すること

日本版ACPとも言われる「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」 は、改訂されてから6年がたちます。しかし、僕のいる岩内協会病院を含め、地方の病院や福祉施設、行政などでは、全くと言っていいほど活動は進んでいません。そのため住民の方々も、その概念に触れていないことがほとんどです。

当院におけるACPの課題

例えば、施設入所や寝たきりの高齢の患者さんが肺炎で入院してきて、すでに意識がないことは、当院ではよくあることです。その患者さんに対して、施設に今後の方針はどうなっていますか? と聞くと、大抵はほぼ決まっていません。入所時に施設側が家族と話し合うことといえば、うちの施設ではここまで診られて、こうなったら診られなくなるので施設から病院や他の施設に行ってもらうなど、施設の方針を伝えて承諾してもらうことに終始しています。

しかし、時々、施設入所者や在宅での患者さんの人生の方針が決まっている場合もあります。その一つとして次のようなことがありました。

「患者さんが当院や他の病院に入院し、そこで患者さん本人と家族、医療職の間で話し合いが持たれ、人生の最終段階の意思決定がされている」。

つまり、地方では、重症で入院した患者さんと入院中に意思決定の話し合いが開かれたり、訪問看護で看護師が何度も訪問しコミュニケーションを取ったりして、患者さんの意思決定されている場合のみ、ガイドラインにある程度沿った今後の方針が決まっているということです。

過疎地域では、すでに高齢化が進み、当院の医療圏の住民の高齢化率は40%以上です。つまり、住民の40%はガイドラインに沿った意思決定が必要です。当院では、訪問看護や外来時、入院時だけではなく、介護施設を含め、住民に対して「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」というものを啓発し、前もって、いろいろ考えていただく活動を随時始めています。

冒頭で書いたように過疎地域では、何か福祉や医療で新たな取り組みをするためには、病院主導でなければ進みません。

そのためには僕たち医療者が患者さんの情報(意思)を救急業務を担う消防とどうやって共有するかも課題だと考えています。

フォントサイズ-+=