2024

04/02

認知症の誤解から考える正しい対応方法とは?

  • 介護

川内 潤
NPO法人となりのかいご・代表理事

隣の介護(29)

前回、5つの「認知症の誤解からくるトラブル事例とそれを回避する方法」を挙げさせていただきました。今回からは、その5つに該当する相談事例から「認知症の誤解と正しい対応方法」をさらに深堀りしていきます。

【1】物忘れはあるが「年相応の物忘れ」と考えてしまう

●ある日突然、母親が交番に保護されて……

久々の帰省で、以前より老いを感じるも両親ともに元気そうです。一緒に食事をしていると、Aさんの大学生の息子のことを「もう中学に入ったのかな?」と母親が聞いてきました。5分後にも同じ質問をされたAさんは母親の様子に違和感を覚えました。母親が作った味噌汁の味が濃いことも気になりました。

母親の認知症を疑うAさんに父親は「年相応だろう。昔からお母さんは忘れっぽいところがあったから」と返答したため、安心して実家を後にしました。

1カ月後、深夜3時に「〇〇交番ですが、お母さんが道に迷われていたので、交番で保護しております」と携帯電話に連絡がありました。母親が深夜に一人で歩いているところを発見し話しかけると、何百キロも離れた自身の実家に行きたい、と返答したため保護されました。父親は携帯電話を持たずに探しに出てしまい、警察から息子のAさんに連絡が来たのです。

Aさんは上司に相談して、有給休暇を取り実家に帰省。母親に病院の受診を勧めるも母親は「どこも悪くない!」と応じません。その後も母親は深夜に生まれ故郷へ出かけようとするため、父親もAさんも寝不足による疲れとストレスから母に強い口調となってしまいます。

Aさんは会社に希望を出し、実家でテレワークができる部署に異動しました。しかし、母親が家から出ていこうとすることが頻発し、仕事に集中できる状況ではありません。

●「地域包括支援センター」への早めの相談が不可欠

Aさんのように、せっかく見つけた変化をそのままにしておくと、外部支援を求める適切なタイミングを逃すことがあります。財布やキャッシュカードをなくす、料理が作れなくなる、道に迷う、などのトラブルが起きてからでは、それぞれの対応に追われているうちに時間と労力が奪われ、仕事との両立が困難になってしまいます。

まずは、電話でも構わないので地域の高齢者向けよろず相談所である「地域包括支援センター」に親の変化を伝えることが重要です。地域包括支援センターによる普段の見守りから、親との関係性づくりを進めていけば、適切な支援につなげられる可能性が高くなります。

例えば、母親の趣味である生け花をきっかけに「生け花のボランティアを探しています」と声をかけて、デイサービスに誘い出します。物忘れがあり不安が高まっている中で、安心できる場所として生まれ故郷を求めていると仮説を立て、この不安を低減するために、デイサービスで昔話をしながら、職員やほかの利用者さんに生け花を教える、というケアを行います。

認知症のケアは、その行動にばかり振り回されるのではなく、原因である不安にアプローチをしないと解決が難しいものです。また、日中の活動量が維持できれば、夜の一人歩きを未然に防ぐことになります。当人が抱えている問題の仮説からケアの実施を繰り返していくのが適切な認知症のケアです。試行錯誤を繰り返す余裕を得るためにも、早めの相談が必要不可欠なのです。

【2】認知症の進行防止だと、やみくもに話しかける

●認知症の父親と上手く会話ができない

Bさんの70代後半の父親が認知症と診断され、一緒に暮らす母親が介護をしていました。母親は認知症が進行しないようにと、「今日は何月何日か」「食べたご飯のこと」など毎日いろいろなことを話しかけるようにしています。

しかし、「そんな事をなんで聞くんだ!」と父親から怒鳴られます。時には売り言葉に買い言葉になり、ケンカなることもあります。また父親から「定年した会社の話」「食べたはずのご飯の催促」をされると心配が増すと言います。

Bさんも頻繁に実家へ帰省して、父親になるべく声をかけるようにしました。ところが父親はBさんにもイライラした態度を取るため、母親も、Bさんも、普通に会話のできない父親と話しをすることに疲れてしまいました。

●進行予防のための会話には技術が必要

Bさんの父親が母親やBさんにイライラしてしまうのは、聞かれたことが時として尋問のように感じることがあるからです。質問されたことを思い出せないことは本人もつらく悔しいはずです。長年仕事でキャリアを築いてきた方ならなおさらです。一方で、家族は今までと変わらないでいてほしいという思いから、できなくなった事を攻めるような物言いになってしまいます。

●認知症の親とその家族の上手な2つの関わり方

・進行予防のための会話とコミュニケーションはプロに任せる

どんな人でも日によってコンディションは違います。それを見極め、ふとした表情の変化などを観察しつつ、話題を変えたり、興味のある会話へと持っていく。これはトレーニングや研修を重ねてこそ培われる技術です。近い存在の家族はどうしても感情的になりやすいので、お互いが穏やかな関係でいるためにも、進行予防のための会話を家族が頑張る必要はありません。

・自分自身が余裕を持てる会話の頻度に調整する

認知症予防のためにたくさん話しかけたり、ずっと側で見守ろうと頑張らなくていいのです。同じ事ばかり聞かれてつらくなってしまう場合は、物理的に接触する頻度を減らす事をおすすめします。

認知症の家族に継続性のある穏やかなケアを届けるためにも、デイサービス、ホームヘルパーなどのサポートを利用しましょう。会話を重ねることで、お互いの不安を加速させてしまう状況は決して良好な関係と言えません。介護のプロに頼るなど、ご自分がストレスを溜めないような関わり方をすると心に余裕ができ、家族との円滑な関係を継続することができます。

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