2022

11/05

細胞を持つ微生物(細菌、真菌、原虫)

  • 感染症

内藤 博敬
静岡県立農林環境専門職大学 生産環境経営学部 准教授
日本医療・環境オゾン学会 副会長
日本機能水学会 理事

新微生物・感染症講座(4)

はじめに

皆さんは「微生物」と聞くと、どのようなモノを思い浮かべるでしょうか。ミドリムシ、大腸菌、パン酵母など、さまざまな小さな生き物の名前が挙がったことと思います。微生物とは、目に見えない小さな生き物の総称で、その多くは一つの細胞から成る単細胞生物です。感染症の原因となる病原体には、この単細胞の微生物だけでなく多細胞の生物あるいは細胞構造を持たない病原体などがあり、微生物学、感染症学としてまとめられています。今回は、細胞構造を持つ微生物のお話を通して、微生物、感染症への理解を深めていきましょう。

細胞とは

生物とは、細胞と呼ばれる構造体からできていて、遺伝物質によって自己複製する有機体です。目に見えない微生物も、もちろん細胞で構成されています。細胞には、大きく分けて真核細胞と原核細胞の2種類があります。真核細胞を持つ真核生物には、私たち人間のような高等生物から、ゾウリムシやカビなどの原生動物や真菌に至るまでが含まれます。原核細胞から成る単細胞生物を原核生物と呼び、細菌、マイコプラズマ、リケッチア、クラミジアなどが含まれます。

真核細胞と原核細胞では、構成成分が異なるために大きさが異なります。原核細胞に対して真核細胞は、直径で比較して約10倍大きいです。また、原核細胞は自身の遺伝子として1~2個しか持っていませんが、真核細胞では複数の長い遺伝子を折りたたんだ染色体を、核と呼ばれる器官の中に格納しています。生物の身体の構成成分や生命活動に必要な酵素やホルモンはタンパク質でできており、遺伝子が設計図となってリボソームと呼ばれる器官でタンパク質を合成します。真核細胞のようにさまざまな細胞内小器官を持たない原核細胞であっても、生物として必要不可欠なリボソームは持っています。また、原核生物は単細胞生物であるため、基本的に細胞壁を持つことで細胞の形を維持しています。真核生物でも真菌や植物などが細胞壁を持っていますが、これらと原核生物の細胞壁とでは構成成分が違っています。原核生物の細胞壁を構成するペプチドグリカンは、私たち人間は持っていませんし、そもそも動物の細胞には細胞壁がありません。こうした違いを利用して、治療や感染予防などへとつながっていきます。

微生物には善玉も悪玉もない

微生物は、動物や植物が誕生する前から地球に存在しており、人間も誕生してから現在まで、微生物と共存しています。私たちの身体は、およそ37兆個の細胞で構成されていると考えられていますが、私たちの身体の表面やお腹の中など身体中に常在している微生物は、少なく見積もっても100兆個以上と考えられています。細胞数で考えれば、私たちの身体は、自分自身の細胞よりも圧倒的に微生物の方が多いのです。微生物は私たちの身体の表面で水分や栄養を得る代わりに、病原体など他の微生物が外界から侵入することを防いだり、消化を助けたり、私たちが作る事のできないビタミンを合成したりと、共生関係を築いています。また、私たち人間は、ヨーグルト、納豆や醤油などの発酵食品を作ったり、抗生物質を得たりと、微生物を利用することもあります。これらの微生物は俗に「善玉菌」と呼ばれますが、微生物には善玉も悪玉もありません。善玉菌の代表とされる乳酸菌であっても、免疫が低下した時にごくごくまれではありますが乳酸菌血症という病気の原因となります。微生物の働きが人間にとって都合が良いか悪いかで善玉/悪玉あるいは発酵/腐敗と言葉を変えているだけなのです。私たちが健康であるためには、微生物との共生バランスを保つことが大切であり、そのために睡眠、摂食、排泄などの規則正しい生活が求められているのです。

病原体としての真菌および原虫

私たちと共生する微生物以外にも、地球上には多くの微生物が存在しています。そのほとんどは、今のところ私たちとの接点が無い未知の微生物であり、有害か無害かも分かりません。これまで知り得ている極一部の微生物を利用し共存しつつ、時に微生物から襲われる事があるというのが現状です。

単細胞の微生物は、前述のように真核生物と原核生物に分かれます。真核生物は、細胞壁を持つ真菌と、細胞壁を持たず運動性を有する原生動物とに分かれます。真菌にはパン酵母やビール酵母、抗生物質を産生する菌、ブルーチーズやカマンベール作りに必要なカビ、さらにはキノコ類も真菌です。水虫やカンジダなどの感染症の原因となる真菌もいますが、その数はそれほど多くはありません。一方、ミドリムシやゾウリムシを代表とする原生動物の中で、感染症の原因となるものを原虫と呼びます。原虫は単細胞の寄生虫のことで、多細胞の寄生虫は蠕虫と呼びます。真菌、原虫も、私たちと同じ真核細胞からなる微生物であるため、同程度の大きさの細胞にくっついて増殖したり、例外はありますが細胞内に入り込むような事が起こりにくく、感染症の数も細菌やウイルスと比べて少ないです。

原核生物の病原体の代表は細菌です。私たちと共生している細菌も多いですが、感染症の原因としても重要なので、次回改めてお話したいと思います。

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