2021

01/12

病院が考える危機管理広報とは……

  • 広報室のお仕事

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佐藤 弘恵
社会福祉法人恩賜財団済生会支部東京都済生会東京都済生会中央病院
広報室 室長

ドクターズプラザ2021年1月号掲載

広報室のお仕事(5)

なぜ危機管理広報が必要なのか?

危機管理と聞くと学生の皆さんは、「医療安全」とか「医療事故」とすぐに結び付けてイメージされることが多いでしょうか? この冊子は医療系の学生の方々も多く読まれると伺っているので、これまでにも薬に関わる医療事故などはいろいろと勉強なさっていることと思います。今回は、どの医療機関でも整えておく必要がある「危機管理対応」の中でも、重要だけれど後回しになりやすい「危機管理広報」について書きたいと思います。

そもそも医療機関が遭遇する危機とはどのような場面だとお考えになりますか? 医療機関にとって最も重大な危機場面は、患者さんの命に関わるような医療事故が発生してしまった時でしょう。あるいは職員による不祥事が発生した時だと思います。いずれにしてもこのような状況が発生した場合、組織は速やかな情報収集と事実関係の確認、原因究明、是正措置、責任表明、再発防止策といった工程で進めていくことが重要になります。それぞれの工程で事実を基に正しい情報を把握し、適時に判断と公表を行うことが危機管理広報です。過去に当院で医療安全管理者を経験してきた私は、この一連の工程を確実にかつ迅速に進めることの苦労が分かる故に、なかなかハードな作業だなといつも考えてしまいます。

なぜ、このような判断と対応を行わなくてはならないのでしょうか。危機管理広報とは、危機直後のブランドの劣化を抑制し、適切な情報開示を継続的に発信することで、信頼回復までの期間を短縮させ、ステークホルダーに対して「危機に強い組織」であることを認識してもらうことに他ならないのです。患者さんの命に関わるようなことが起こるのが医療機関の危機だとするならば、患者さんやご家族へ誠実な対応を行った上で、事実と対応策を報告・公表することは社会的責務であるとも考えます。ここ最近報道に出てくる企業の危機事例などは、発生した時のメディア対応を失敗したために、ネガティブな報道や時にはSNSでも拡散され、企業イメージが大きく失墜してしまうケースが少なくありません。また公表が遅れてしまうと、あらゆるステークホルダーに「隠蔽したのではないか?」という懸念を抱かせてしまいます。こういったことを理解した上で、危機管理広報は進めていくことが重要です。

危機が発生した際の対応手順や注意点

では、危機管理広報では、具体的にどのようなことを進めていくのかについて触れていきましょう。危機が発生した際に、まずはステートメントを準備します。ステートメントとは、事態の経緯や事実関係についてステークホルダーが求める情報に対する組織の方針や対応プロセスを時系列に分かりやすく箇条書きに整理したものです。内外関係者に対して公表する際にはステートメント内容を基本にウェブサイト掲載文書や関係取引先への謝罪文章など、配布対象者別の資料を各担当者が作成します。通知する事実関係(特に数字)に齟齬を生じさせないようにするために活用します。

ステートメントを基に公表準備を進めますが、それよりも先に職員への通知を進めなくてはなりません。病院であれば医療安全管理部門と相談し、職員への公表レベルを決めていきます。ひとたび組織の危機に関する情報が流出すると、各職場へも問い合わせが押し寄せることが想定されるため、統一した対応が取れるようにしておく必要があります。そのため、職員へ向けては、事実関係と問い合わせが入った際の対応手順や注意点についても周知しておく必要があります。そして広報担当者が関わるさらに重要な部分は、経営幹部が対応することになる記者会見です。これは慣れないことが多いととてもストレスフルな事態になります。日頃から「メディア・トレーニング」を実施し、マスコミ対応スキルを向上させる必要があると強く感じます。なぜなら、組織が危機状態になった時、ステークホルダーは「問題を起こした」という事実と同じくらい、「その組織がどれだけ素早く誠実に対応したか」を重視するからです。記者会見などの場では、画面を通して組織の姿勢がそのまま伝わり、評価されるということですね。

このように、医療機関における危機管理広報は一つ間違えると組織のイメージにも大きな影響を及ぼすことをご理解いただけたでしょうか。広報担当者の力量は危機管理対応が適切にできるかどうかで判断されるといっても過言ではないと思います。私もさらに経験を積み、日頃からリスクヘッジができるように心掛けたいと思います。

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