2023

10/10

“小さい総合病院”を目指さない“独自の地域病院”へ

  • 地域医療

  • 北海道

横山 和之
北海道社会事業協会 岩内病院 院長

地域医療・北海道(50)

多くの地方病院のビジネスモデル

多くの地方の病院は、病院の方向性として、多くの場合、小さい総合病院を目指していると思います。常勤で内科、外科、小児科、整形外科を曲がりなりにも揃え、ほかにあれば耳鼻科、皮膚科、眼科などの診療科をパート医などで揃えることで、地域住民の医療ニーズに応えるというやり方です。 でも最近の地方病院では、このビジネスモデルは成り立たなくなってきています。このビジネスモデルを成り立たせるには内科、外科、小児科、整形外科でそれぞれ数人の医師が必要となります。何でも診ることのできる守備範囲の広い医師であれば、その人数は少なくできますが、最近そういう守備範囲の広い医師は内科、外科、小児科、整形外科問わず少なくなってきています。少なくてもそれぞれ3人程度の医師が確保されてやっと、小さな総合病院的な病院の体を成します。しかし、地方病院でその人数の医師を確保するのは難しくなってきています。特に、北海道の地方病院では確保できなくなっていると思います。現在、僕が勤務している岩内協会病院でも、医師確保が厳しく、小さな総合病院的な方向で医療を展開するのは困難になっています。

今のマンパワーで地域医療に貢献するには?

地域医療は、地域の住民の健康増進が一番大事な役割です。今まで、当院は小さな総合病院を目指すことで、広い疾患に対応し、病気の患者さんを診るということを一番に考えていました。そのため、“当院には、今はマンパワーがないので患者さんの医療ニーズに応えられない”と、言い訳をしていました。医師が少なく、総合病院の体を成していない地域病院である岩内協会病院で地域住民の健康増進に向けてできることを、あまりしていなかったことが存在していました。それは、予防医療や早期発見、行政と綿密につながった住民への啓発活動など、「病気にならない、なっても病気を早く見つける」活動です。この活動には専門医は必要ないし、マンパワーが不足していても、行政との協力で可能な活動と考えます。

最近、面白い記事が北海道新聞に掲載されました。肺がんで死亡する確率が高い北海道の市町村で、小樽市、釧路市、根室市、それと岩内町の4つが挙げられていました。なんと岩内町は肺がんで死ぬ率が高い地域なのです。ちなみに、人口比で膵がんに関しても死亡率が高い方だと聞いています。岩内協会病院のある岩内町は、産業構造のためか、住民の検診率が著しく低い地域となっています。北海道庁の方々に聞くと、海岸線の市町村で検診率が低いとのことです。まさに、当院の医療圏である周辺町村は日本海側の町村です。 検診率の低さが、肺がん死亡率の高さの一因であることは否めません。

検診率が低いということは、住民の早期発見・早期治療予防に関しての意識が低い地域ということです。肺がんに限らず、そのほかの健康に関すること全てにおいて、地域住民の意識が低いと考えられます。ただし、そのことは、 検診を含めた、健康増進や予防医療に力を入れることで、たくさんの住民が恩恵を受けるということです。当院のような地方の病院には、たくさんの専門医を揃えて、高度な専門性を持った医療を提供すること(いわゆる小さい総合病院)は現実的に不可能となっています。ですが、地域の地方病院にこそ、 予防医療や健康増進に関しては、十分力を発揮できる分野であると考えています。小さい総合病院を目指さず、病気になる前の取り組み、病気なっても早期に見つかる取り組み、そして、見つけた病気を、可能なら岩内協会病院で治療し、専門医につなげた方がより良いならスムーズに橋渡しを行う。 そのような、新しい可能性のある地方病院の方向を向くことが必要です。保健所、役場、その上の北海道、そして岩内協会病院で協働し活動していくことが必要です。

その取り組みの一部として、現在、北海道大学呼吸器外科と北海道、岩内町、岩内協会病院の4者で肺がん検診の健診率向上に向けた取り組みが進んでいます。また、健診の枠を拡充し、健診をたくさんの人が受けられるようにシステムを変えたり、肺がんだけではなく、そのほかのがん検診や脳ドックなど、そのほかの領域でも、病気になってからではなく病気にならないように、なっても早く見つかるようになったりする、という活動に行政と一緒に取り組みつつあります。

 

フォントサイズ-+=