2023

11/05

呼吸器感染症

  • 感染症

内藤 博敬
静岡県立農林環境専門職大学 生産環境経営学部 准教授
日本医療・環境オゾン学会 副会長
日本機能水学会 理事

新微生物・感染症講座(10)

はじめに

秋から冬にかけて注意すべき感染症として、RSウイルス、溶血性レンサ球菌、マイコプラズマ、コロナ風邪、インフルエンザといった、呼吸器感染症の名が多く挙がります。私たちは呼吸をしなければ生きていけませんから、空気中から呼吸を介して体内に侵入してくる病原体は、極めて厄介です。COVID-19パンデミックで影をひそめていたこれらの感染症ですが、今シーズンは特にインフルエンザの流行が懸念されています。今回は季節と疾患の関係性や、呼吸器感染症の感染経路や予防対策について書きたいと思います。

疾患と季節性

日本は、四季折々で植物や景色景観の美しさや食の豊かさを持つ、世界でも有数の国です。農作物を作るにしても季節があるのはありがたいことですが、一方で花粉症、熱中症、喘息発作、季節性感情障害など、決まった季節や季節の変わり目に起こしやすい疾患もあります。感染症にも、流行しやすい季節が決まっているものがあります。感染症が季節性を示す理由は病原体ごとに異なりますが、例えばインフルエンザであれば気温、気湿や紫外線量などの気候要因が、日本脳炎であれば媒介する蚊の活動時期が要因となります。蚊の他にも、感染症を媒介する虫や動物は多いので、それら個々の活動時期が季節性の要因となるのです。また、私たち自身の免疫も季節によって変動しますし、学校行事、職場環境や旅行などの生活様式や社会環境も感染のしやすさや流行と密接に関係しており、これらの要因が関連しあって感染症の季節性を生み出していると考えられます。

飛沫感染と空気感染

咽頭や肺などの呼吸器は、食物の通る食道に対して気道と呼ばれます。呼吸器感染症は、病原体がこの気道を通って感染することから、感染経路で分類すると経気道感染に含まれ、飛沫感染と空気感染に大別されます。「飛沫感染」は、「ひまつかんせん」と読みますが、飛沫は「しぶき」とも読みます。ここで意味するしぶきとは、咳やくしゃみ、あるいは会話などで口から放出される唾液や咽頭分泌液の粒です。この粒が、直径5 µm(マイクロメートル:1/1,000,000メートル)以上の場合を飛沫と呼び、インフルエンザ、コロナ、風疹、おたふく風邪など多くの呼吸器感染症がこの飛沫で感染します。直径5 µm以下あるいは放出後に乾燥して直径5 µm以下となった場合には、飛沫核と呼びます。飛沫だけでなく飛沫核によって感染すると、空気感染(飛沫核感染)と呼びます。空気感染には、感染者から放出されてうつる病原体だけでなく、自然界から大気中を漂って感染する病原体もいます。前者は麻疹、結核、水痘-帯状疱疹、後者にはレジオネラなどがあります。

本来動物にとって鼻は呼吸をする器官で、口は食事をする器官ですが、人間だけは口でも呼吸ができます(犬がハァハァするのは体温調節です)。口呼吸では鼻腔というフィルターを介さずに直接空気を気道に送り込むため、飛沫や飛沫核に含まれる病原体をも取り込むリスクが高くなります。就寝時は無意識に口呼吸をすることがあるかもしれませんが、普段から鼻で呼吸をすることを心掛けましょう。

今冬のインフルエンザを予防しよう

COVID-19パンデミックの間、感染者の報告が極端に減少したため、すっかり意識が薄らいでしまったインフルエンザですが、2023年の年頭には2020年の年頭と同程度の小さな流行がありました。米国をはじめ諸外国でもインフルエンザ流行が報告されており、日本ではCOVID-19とともに夏場でも感染報告があったため、今冬はインフルエンザの本格的な流行が懸念されています。インフルエンザをはじめ、呼吸器感染症予防の基本は、マスク、手洗い、うがいです。それぞれの効果について賛否はありますが、いずれにしても感染を助長するものではありません。薬や消毒剤でも同じことが言えますが、適切、適度に利用しなければ効果は期待できないので、適正利用を心掛けましょう。

インフルエンザに対しては、こうした基本的な予防の他に、ワクチン接種による流行対策があります。インフルエンザワクチンは、その年に流行すると予測されるウイルス株の情報を免疫に覚えさせ、流行時にウイルスに曝露されても素早く強い免疫反応で感染防御あるいは重症化を防ぎます。ワクチンは感染しなくなるものでも治療薬でもありませんが、自分自身が流行の輪の中にあっても重症化を防ぎ、また他人へうつして流行を拡大することを防ぎます。ワクチンは、1人だけが接種しても流行は防げないので、集団としての接種が望まれます。ただし、現在のインフルエンザワクチンは鶏卵を利用しているので、卵アレルギーのある方には接種できません。ワクチンを打たないからといって責めてはいけません。

食中毒にも気をつけて

今回は呼吸器感染症について書いてきましたが、秋から冬にかけて注意すべき感染症はそれだけではありません。ノロウイルスに代表される感染性胃腸炎にも注意してください。ノロウイルスは1年を通じて環境中に存在していますが、冬場に症状を呈して流行を起こす理由は明らかとなっていません。ノロウイルスは加熱によって処理できるので、手指衛生、調理道具の衛生管理とともに、加熱調理で感染予防を心掛けてください。

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