2022

10/24

医療業界におけるデジタルトランスフォーメーション

小黒 佳代子
株式会社メディカル・プロフィックス 取締役、株式会社ファーマ・プラス 取締役
一般社団法人 保険薬局経営者連合会 副会長

薬剤師のお仕事(15)

DXとは?

最近、DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉をよく耳にします。DXは、2004年にスウェーデン・ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授によって提唱された概念で「ICTの浸透が人々の生活をあらゆる面でよりよい方向に変化させる」という意味だそうです。医療業界のDXは他の業界に比べてとても遅れているといわれていますが、それは毎日の業務の中でも感じていました。今現在においても、紙のカルテを使っている病院や診療所も見受けられます。

しかし、IT化は進められており、病院内でカルテをどこでも閲覧できるように電子カルテを導入したり、レントゲンは今やフィルムで焼くということはなくなり、撮影したものを医師の診察室で確認できますし、地域の医師にCDに保存して情報を提供することもできるようになりました。それでも、それを活用したDXが進まなかったのは、医療は個人情報が多く、これらが外部に漏れるのを恐れているというのが原因の一つではないかと業務の中で感じています。

厚生労働省がDXを進めたかった一つの理由は、僻地における医療提供施設、医療者の不足でした。僻地でのオンライン診療のモデル事業も行われ、2018年には診療報酬改定でオンライン診療による診療報酬が新設されて、僻地以外でもオンライン診療が可能となりました。しかし、医療は対面で実施されるべきという考えが強く、ほとんど実施されていなかったのが実情です。これが大きく動いたのは新型コロナウイルス感染症による感染拡大でした。病院やクリニックは、国民にとって新型コロナウイルスに感染する可能性が高く、できれば行きたくない場所となってしまいました。

オンライン診療は、本来顔の見えるスマートフォンやパソコンを使用して行うということになっていましたが、2020年4月には、特例措置(0410通知)として電話でもよいことになり、薬もそれに合わせて、電話で服薬指導を実施して薬を郵送してよいということになりました。2019年9月に改正された医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(通称 改正薬機法)でも対面の服薬指導を原則とした一定条件下での薬剤師のオンライン服薬指導も認められていましたが、これが0410通知でも活用される形となりました。

オンライン服薬指導の現状

しかし、0410通知によるオンライン診療による処方箋を発行した医療機関は27.9%となっており、2020年5月~ 2021年8月にかけて薬局でこれにかかる処方箋を受け付けたのは全処方箋枚数に対して0.3〜0.6%程度で推移しているという報告がありました。2022年の診療報酬改定および調剤報酬改定ではこれらを押し進める方策として、薬局でのオンライン服薬指導は、医師のオンライン診療にかかる処方箋に限らず、原則どの処方箋でもオンライン服薬指導を実施してもよいということになりました。また、さらに症状が安定している患者に限り、医療機関でレフィル処方箋を発行できるようになりました。レフィル処方箋は3回まで反復使用可能で、病院やクリニックに行かなくても同じ薬なら薬局で薬剤師に体調などを確認してもらいながら薬をもらうことができる仕組みで、既にイギリスやアメリカでもずっと以前から導入されています。

信頼できる医師・薬剤師を見つける

DXでは、薬局薬剤師が患者さんの体調を確認し、必要に応じて医療機関への受診を促すなど、大きな役割を果たすことが重要だと考えております。また医療における医師の働き方改革という観点や、医療費の削減という観点からも重要だと思います。しかし「薬局は薬もらう場所」という意識が強く、オンライン診療で簡単に医師に受診して、同時に必要な薬が自動的に自宅に届くというようなシステムも見受けられ、薬剤師が介入しているのかよく分からないものもあります。利便性だけを重要視することが本当のDXでしょうか。人々の生活をあらゆる面でよりよい方向に変化させるとことがDXだとしたら、信頼できる医師を見つけて必要に応じてオンラインを利用しながらかかりつけの医師に診察を受け、症状が安定している場合にはレフィルを利用し、信頼できるかかりつけ薬剤師を見つけて、薬の効果を確認してもらったり相談したりしながら異常があったら医師に連絡してもらうことで自分自身の健康を守り、元気で長く生き続けられる医療を実行するということが重要なのではないでしょうか。

体調が急に悪くなって、いつもと違うクリニックに受診したとき、信頼できるかかりつけ薬剤師の薬局にわざわざ行くのが大変で、薬だけはクリニックの側で受け取ったという経験がある方もいらっしゃると思います。しかし、オンライン服薬指導を利用すればそのような遠回りをしなくてもいつもの薬剤師から薬の説明を受けて薬を届けてもらうことができます。医療におけるDXの実現には、まずが信頼できる医師や信頼できる薬剤師を見つけることをお勧めしたいと思います。

参考:令和4年3月10日薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググルーフ資料

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