2021

01/20

地方病院でのせん妄対策

  • 地域医療

  • 北海道

横 山  和 之
社会福祉法人北海道社会事業協会小樽病院 外科部長

ドクターズプラザ2021年1月号掲載

地域医療・北海道 40

令和2年に開始したせん妄ハイリスク患者ケア加算

せん妄ハイリスク患者ケア加算が令和2年度診療報酬改定において評価され、算定できるようになりました。その加算は、急性期医療を担う保険医療期間の一般病棟において、全ての入院患者に対してせん妄のリスク因子の確認を行い、ハイリスク患者に対しては、薬物を使用せずに、「せん妄対策」を実施した場合に算定できる加算です。せん妄対策に加算を付けてでも急性期病棟でおしなべて行われることが、入院期間短縮など医療費の削減につながると国が考えていることの表れです。それは、入院中に1回100点の加算であり、急性期入院の全ての患者に適応可能な加算です。入院患者の単価を1000円底上げしてでも、結局は医療費が下がると国は踏んでいるわけです。せん妄対策は、それほど効果のあるものと考えられます。

せん妄のリスク因子は、
①70歳以上
②脳器質障害(脳転移を含む)
③認知症
④アルコール多飲
⑤せん妄の既往
⑥ベンゾジアゼピン系薬剤内服
⑦頭部疾患の既往(脳腫瘍、脳転移、脳梗塞、脳出血、頭部外傷など)
⑧重篤な身体疾患
⑨侵襲の高い手術・治療前
であり、急性期の一般病棟に入院となる患者さんの多くはどれかに当てはまるような内容です。当院が位置する小樽市はもともと65歳以上の人口が40%を超えていて、入院患者の多くは高齢者であるため、リスク因子のどれかに当てはまるような、せん妄のハイリスク患者は他の地域よりもさらに多いと考えられます。

周術期管理チームを中心とした活動

当院では、看護部が主体となり、せん妄ハイリスク患者ケア加算を取るべく、チェックリストを作成し、入院時にアセスメントシートを完成させるように取り組みました。ただ、他の病院でも多くあると思いますが、アセスメントシートを入院時に完成させることを目的とすると、せん妄対策がおざなりになってしまいました。国が重要であると指し示した、せん妄対策の強化に積極的に取り組ませるための加算の新設であったという事実が忘れられています。

また、当院では周術期管理チームを2020年1月から立ち上げて活動していました。周術期の患者さんは、せん妄のリスク因子のいずれかに当てはまり、ハイリスク患者であると考えられる場合が他の患者さんよりも多く、せん妄対策は周術期管理チームで関わらなければならないものであると考えられました。そこで周術期管理チームを中心に、加算を取るためだけのチェックリストの作成ではなく、入院時のチェックリスト作成をせん妄対策へとつなげるための活動をすることとしました。

周術期管理チームでは、毎週金曜日の朝8時から始まるミニカンファレンスの前に、毎週7時30分から外科医による周術期勉強会を行っていました。その時間を利用し、週に1回ずつ4回にわたり、せん妄の勉強会を行いました。その勉強会で何度も次のような「せん妄のケアの基本」を話しました。せん妄のケアの基本は、予防と早期発見・対応です。まずは、入院時または患者さんの状況が変わった時にせん妄のリスクをアセスメントし、そこでリスクが高い場合に予防的な対応とせん妄の早期発見のための症状観察を行います。決して、アセスメントシートを作成することが目的ではなく、アセスメントシートはせん妄のアセスメントのためのツールです。

患者さんがせん妄になってから、つまり、暴れてから(過活動性せん妄状態になってから)行うのがせん妄対策ではなく、予防と早期発見・対応、そして薬物療法は最後の手段であることを徹底的にみんなで学び、そこから、病棟のスタッフに、啓発活動をしてもらいました。多職種で学び、それぞれの立場で、せん妄対策の理解を深め、ハイリスク患者さんの情報共有ができるようになっています。病院に治療のために入院すると、それまでの生活環境が変化します。地方の病院においては高齢者の入院が多く、さらに、手術患者であればせん妄のハイリスク患者となる場合が多くなっています。まずは周術期患者さんを対象に、周術期管理チームのスタッフが中心となって、アセスメントシートをせん妄対策につなげていき、全ての入院患者さんに、安全な医療が提供できるように活動しています。

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