2026
08/03
配偶者の介護に不安を感じたときに考えるべきこと
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介護
NPO法人となりのかいご・代表理事
隣の介護(44)
ある日突然、配偶者が病気やけがで倒れ、介護が必要になったら――と想像したことはありますか? 「親の介護」とは違い、「配偶者の介護」は一緒に生活を支えているため、自身の生活環境に大きく影響します。今回は事例も交えて「配偶者の介護に不安を感じたときに考えるべきこと」についてお伝えします。
Contents
【事例】50代の夫が若年性認知症を発症されたケース
夫に職場でのミスが増え始めましたが、本人から家族への相談はなく、異変に気付いたのは職場の上司でした。その後、夫は簡単な業務のみを任されますが、その環境が強いストレスとなり、自宅で大声を出したり、物を投げたりするようになります。警察が駆け付けることもあり、妻は身の危険を感じる状況にまでなりました。妻が丁寧に関わろうとすればするほど、夫の混乱は強まり、状況はむしろ悪化していきました。
その後、妻は地域包括支援センターや若年性認知症コーディネーターに相談し、障害年金の活用などを通じて生活の見通しを立てることができました。最終的に夫は入院という選択に至りましたが、妻は食事や洗濯といった最低限の支援に関わりを絞り、自身の仕事や生活を守ることを優先しました。このケースで妻は「全てを抱え込まない」「できないことはやらない」という判断をしたのです。
本事例を基に心がけや気を付けたいことなどを述べたいと思います。
「配偶者の介護」と「親の介護」との違い
「配偶者の介護」は、「親の介護」に比べてより直接的に自分の生活環境へ影響を与える可能性があります。そのため、「親の介護」以上に事前の心構えが必要になります。
配偶者は生活の基盤を共に築いてきた存在であるため、一度、要介護状態になると物理的にも心理的にも距離を取ることが難しく、密接に関わらざるを得ません。配偶者とは、ほとんどの場合同居しているため、24時間介護になりやすいのです。夫婦の年齢が近いと、体力的な負担も感じるでしょう。タイミングによっては働けないことによる収入の減少も考えられるため、即座に生活困窮に陥るリスクがあります。
事前にできる心構えとは
事前にできる心構えとして、「もしも1カ月後、配偶者を介護することになったら?」とイメージしてみてください。イメージしたときに感じる不安や心配はどんなことなのか。どうすれば無理なく生活できるのか。できるだけ無理なく配偶者を介護する方法を考えてみましょう。
「配偶者の介護」は長期化も予想されるため、支える側の負担が過度になりがちです。だからこそ、まず自分の生活を大切にすることを軸に置くべきです。どんな介護状態になったとしても、冷静に考えられる余裕を持つこと、決して一人で抱え込まないことを大切にしてください。
事前に話しておきたいこと
お互いが元気なうちに配偶者と話し合っておくことも有効です。このコラムをきっかけに、「もし自分に介護が必要な状況になったら、どうしてほしいか」を聞いてみましょう。例えば、「自分が介護状態になったとき相手には仕事を続けてほしいのか」「子どもの生活を優先してほしいのか」「外部サービスを使うのか」「一緒にいる距離感をどう考えるのか」といった点です。こうした会話をしておくことで、お互いの価値観を共有し、いざというときの判断の軸を持つことができます。
相手の望みが負担だったとき、どうすれば良いのか
「配偶者の介護」では、「やってほしい」と望まれることが、自分にとって負担に感じる場面が必ず出てきます。そのときは、無理に引き受ける必要はありません。負担に感じる関わりは長続きせず、やがて相手に対して優しく接することが難しくなり、関係そのものが崩れてしまうためです。例えば、「なぜ一人にするのか」「もっと丁寧に対応してほしい」「夜中でも話を聞いてほしい」といった要望があったとしても、負担に感じるのであれば全てを引き受ける必要はありません。断ることは冷たい行為ではなく、関係を維持するための現実的な判断です。
「やれない範囲はどうなるのか」という問いへの答え
全てを誰かが代わりにやってくれるわけではありませんが、全てを自分がやらなければ生活が成り立たないわけでもありません。
自分の心身の状態を基準に、「どこまでなら無理なく関われるのか」を見極めることです。全てを引き受けようとすると、かえって関係も生活も不安定になります。大切なのは、「何をするか」よりも「何をしないか」を決めることです。
現実的には、「自分でやる」「外部に任せる」「やらない(減らす)」という選択肢の中で生活を再設計していきます。これまでのやり方にこだわるのではなく、優先順位をつけて本当に大切にしたいことは何かを考えることが重要です。例えば、配偶者から目が離せないので、テレワークや介護休業で見守りを始める、というのは、介護の継続性から考えて「できないこと」「やらないこと」と判断するのが適切であると考えます。
元の生活には戻らない前提で考える
大切なのは、「元の生活に戻す」ことではなく、「新しい形に再設計する」ことです。判断に迷ったときは、生命や安全に関わることは優先する一方で、それ以外の部分はやり方を変えたり、外部に任せたりして整理すると見えやすくなります。また、「それは本人の望みなのか、それとも自分の不安なのか」を切り分けることも重要です。
「配偶者の介護」で気を付けたいこと
「配偶者の介護」で、一番気を付けたいのが、「家族だけで抱え込まないこと」です。「長年連れ添ってきたのだから、自分が支えていこう」「まずは家族が介護をするべき」と考える方が大半だと思います。しかし、慣れない介護やワンオペの家事・育児、仕事との両立に疲弊し、その結果、支える側が倒れてしまうケースも少なくありません。「配偶者の介護」は、どんなに頑張っても、その成果が目に見えるものではありません。疲れていたら手を止めて休むこと。意識して一人の時間をつくり、悩みやストレスを発散できる場を持つことが大切です。
地域包括支援センターに相談することもお勧めです。支えている自分が負担に感じていることなど、言葉にするだけでも発散できます。「できるだけ頑張って支える」ことを目標にするのではなく、「やれる範囲だけやる」「今やっている範囲で十分」と、自分を褒めて許してあげてください。
「配偶者の介護」において、良い介護とは
良い介護とは、「どれだけやったか」でも「どれだけ犠牲を払ったか」でもありません。お互いに良好な関係が保たれているかどうかが重要です。ここでいう関係とは、これまでと同じ形を維持することではなく、状況に応じて無理のない関わり方に見直しながら、穏やかな関係を続けていく状態を指します。その意味でも、働き続けることや自分の生活を守ることは重要であり、介護だけの生活に偏らないバランスを保つことが、結果として良い関係を保つことにつながります。