2018

05/23

地域の中小病院はどこを向くべきか―真剣に誤嚥と向き合う―

  • 地域医療

  • 北海道

横山 和之
社会福祉法人北海道社会事業協会小樽病院 外科

ドクターズプラザ2018年5月号掲載

地域医療・北海道(32)

初期では気付かれにくい誤嚥機能の低下

小樽という地方都市で一番困っている患者さんはどういう疾患を抱えた方々なのか? その困っている患者さんとそのご家族に対して逃げずに向き合えば、よりたくさんの患者さんに対し有用な医療を提供出来る。売り手が売りたいだけの商品を少ない顧客に売るのではなく、たくさんの顧客が求めている商品を見つけ、開発し売ることがビジネスでは常識です。医療の世界も同じではないでしょうか。小樽市は全国の街に先駆けて急速に高齢者の人口の割合が増加しています。その勢いは爆発的です。また、今後は極近い将来に日本全体が同じように高齢者の割合が多くなってくるのは確実です。

人間は、高齢になってくると内蔵の老化だけでなく、脳の認知機能の低下、ロコモティブシンドロームとも表現される運動器の機能低下、そして摂食嚥下機能の低下からくる低栄養や誤嚥のリスクが避けられません。その中で嚥下機能の低下は誤嚥性肺炎へとつながります。足腰の衰えは他覚的にも自覚的にも分かりやすいですが、嚥下機能の低下は初期の段階では分かりにくいことが多いのではないでしょうか。大抵、多少のムセや飲み込みにくさは「もう私、歳だから」「爺さんも歳だからね」と患者家族双方とも軽く考え気にもされずに年齢を重ねていきます。そのため、ある日突然に、ひどいムセが顕著に現れたり、さらに誤嚥性肺炎になったりして初めて、本人や家族が誤嚥の事実を認識し、嚥下機能の低下に気づくのが現状です。その時にはすでに嚥下機能は著しく衰え、誤嚥はかなり進行しています。嚥下機能の衰えを早めに発見、評価し、機能の衰えを最小限に食い止めながら、誤嚥性肺炎の危険を減らしていくことが大切だと考えます。また誤嚥し肺炎になっても、当院でそのまま肺炎の治療を行い、同時に嚥下機能を再評価、リハビリをして自宅や施設にお返しするのが、外来入院また在宅(あるいは施設)と全てがシームレスにつながることになります。

組織として積極的に取り組む

小樽市内では、個人的には積極的に嚥下や誤嚥に対して活動している医師やコメディカルの方たちはいます。しかし、組織として嚥下リハビリや誤嚥性肺炎に積極的に取り組んでいる病院はないように思います。

一般的に、急性期病院の医師は、市中肺炎や間質性肺炎は診るけれど高齢者の嚥下機能低下による誤嚥性肺炎はちょっと敬遠しがちです(もっともそうではない医師もいますが)。また、三次救急を行っているような病院では、誤嚥性肺炎は手を出しにくい領域でもあります。なぜなら、病棟が誤嚥性肺炎でいっぱいになり、新規の救急患者を受け入れられなくなる可能性があるからです。嚥下リハビリを積極的にしつつ、誤嚥性肺炎の患者も受けいれることが出来るのは、急性期病院+αの機能を持った中小病院です。どこかの急性期病院が火中の栗を拾うがごとく敬遠していた「嚥下機能低下からくる誤嚥」に対して、組織として立ち向かわなければならない状況に、もうなっています。地域包括病棟や障害者病棟を持ちつつ、急性期医療も積極的に行っている病院がこのような嚥下機能低下、誤嚥性肺炎を抱えた患者さんに対して積極的に医療を提供する。そのことが全体としては誤嚥性肺炎による入院を結局は減らし、長く在宅や施設で暮らせる患者さんを増やすことにつながると考えます。

以上のことから

⑴早いうちに嚥下機能を評価し嚥下機能低下を早期発見する。
⑵嚥下機能の低下を最小限にするためにリハビリ指導をする。
⑶誤嚥性肺炎になったらしっかり病院で治療する。
⑷肺炎治癒後は再度嚥下機能を評価する。
⑸入院中はリハビリを行い、なるべく経口で食事できるようにし、自宅や施設にお返しする。
⑹治療とリハビリを続けていく中で自宅や施設で過ごすのが無理になってきたら病院でお預かりして今後の方向性を多職種で決めていく。

という機能を全て持ち合わせた地方中小病院が組織として多職種で、嚥下機能低下や誤嚥性肺炎に対して、戦いを挑むことが求められていると思います。当院においては今年の夏をめどに準備を進めています。

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