2020

08/26

ポストコロナ時代の学校の在り方

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内山有子
東洋大学ライフデザイン学部 准教授

ドクターズプラザ2020年9月号

学校再開までの経緯

2019年冬に中国で発生した新型コロナウイルスは、短期間で日本を含めた200以上の国・地域に感染拡大し、今もなおその猛威を振るっています。このような状況下で2月末に安倍首相の要請を受け、文部科学省が全国の小中高校と特別支援学校に一斉休校措置の通知を出しました。この時期に一斉休校を導入した国はまだ少なく、また全国各地の感染者数に違いがありましたが、多くの学校は国からの要請通り3月2日から一斉休校に入りました。当初は春休みまでの数週間の休校予定で終業式や卒業式が中止となりましたが、結果的に5月25日の緊急事態宣言解除まで休校措置が継続され、全国の約7割の公立学校が5月末まで休校しました。

休校期間中は、自宅学習という形で自宅に課題が送られてきたり、スマートフォンやパソコンを使用した遠隔授業が配信されるなど、学校によりさまざまな工夫を凝らした授業が展開されましたがその格差は大きく、家庭環境や地域差が浮き彫りとなりました。このような中「子どものからだと心・連絡会議」が東京・埼玉・神奈川・静岡の31校、2357組の小中学生とその保護者を対象として5月中旬に「休校中の子どものからだと心」に関する緊急調査を行いました。その結果、「子どもの心の状態」(グラフ1)としては「集中できない」「やる気がでない」「怒りっぽい」「いらいらする」などの回答が上位にみられ、休校により子どもの心が不安定になっていることが分かりました。「休校中に困っていること」(グラフ2)として子どもからは「外に出られない」「友達に会えない」「運動不足になる」などが、保護者からは「運動不足になる」「勉強を教えてもらえない」「外に出られない」などが上位にあげられ、子どもと保護者の「困っていること」に違いが見られました。また、保護者からは「親子ともに生活リズムが乱れて、親子でイライラしている」という回答もあり、子どもも保護者もそして教員も、不安な気持ちを抱えながら学校の再開を待ちました。

いざ、学校再開

緊急事態宣言の解除を受け、多くの学校が6月に再開されました。再開に当たり文部科学省は「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル」を作成し、全国の学校へ周知しました。このマニュアルでは、「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」の提言を踏まえ、地域の感染状況に応じてレベルを3段階に分けた身体的距離や教科活動、部活動などの「学校行動基準」(表1)や「児童生徒への指導」「集団感染のリスクへの対応」などを示しています。

レベル1

生活圏内の状況が、感染観察都道府県に相当する感染状況である地域のうち、レベル2に当たらないもの

レベル2

生活圏内の状況が①「感染拡大注意都道府県」に相当する感染状況である地域、および②「感染観察都道府県」に相当する感染状況である地域のうち、感染経路が不明な感染者が過去に一定程度存在していたことなどにより当面の間注意を要する地域

レベル3

生活圏内の状況が、「特定(警戒)都道府県」に相当する感染状況である地域

また、同様に文部科学省が6月に通知した「新型コロナウイルス感染症に対応した持続的な学校運営のためのガイドライン」では、「学校における感染症対策の考え方」や「感染者等が発生した場合や児童生徒等の出席等に関する対応」「学習指導」などの具体例が示されました。しかし、長期間の外出自粛や自宅学習による生活リズムの乱れ、体力低下、学習差などの課題は解決されないままで、また、登下校時を含めた常時マスク着用、クラスや学年を分ける分散登校や時間短縮授業、無言の給食、1日1回以上の消毒活動など今までにない新しい授業形態や生活様式は子どもも教員も大きな負担となっています。

学校の現状は

再開した学校では、毎日の健康観察、検温、消毒、放課後の清掃活動など教員が行う仕事が増大しました。加えて、子どもが校内を移動する際の導線の確保や、マスクやフェイスシールドを着用しフィジカル・ディスタンスへ配慮した授業など、今までとは大きく異なる授業形態で行う授業は、子どもも教員も挑戦の連続です。また、例年6月末までに行うことが義務付けられている健康診断が、今年度に限り「年度末までの間に実施で良い」という特例になったことにより、子どもの視力やむし歯などの健康状態の確認が遅れたり、使い捨てマスクや手袋、手洗い石けん、消毒液の確保に苦慮するなど健康管理、衛生管理の困難も続いています。そして、3カ月に及ぶ休校措置により削られた授業時間を確保するため、全国の9割以上の公立学校が夏休みを短縮(※1)して授業を行います。本来、夏休みは子どもたちの心身の健康を考え高温多湿な環境で学ぶことを避けるために設けられているのですが、マスク着用、換気などの感染症対策を講じながらの授業は困難です。また、「熱中症予防のための冷房未設置問題」が解決していない学校も多数あり、夏休み期間中に授業を行うことの難しさが指摘されています。

しかし、嘆いてばかりはいられません。子どもたちにはこのような困難な状況を打破していく力強さと未来があります。子どもたちのICT技術の習得力の速さに驚くとともに、フィジカル・ディスタンスに配慮した新しい遊びを考えたり、体調不良の友人を気遣ったりと、今までの学校では見ることができなかった子どもたちの新しい一面を発見し、新型コロナウイルスを想定した「新しい生活様式」に向かって、確実に前進していることを実感しています。1日も早い流行の終息を願うとともに、ポストコロナ時代の新しい学校が子どもたちにとって、より良い学校になることに期待しています。

 

※1「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた公立学校における学習指導等に関する状況について」(文部科学省)の「公立小中学校の夏休みの日数」より

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