2021

09/06

からだの睡眠力を高める

  • 睡眠

  • null

岡島 義
東京家政大学人文学部 心理カウンセリング学科 准教授

DRP Healthcare magazine2021年9月号掲載

睡眠と健康02

眠りと覚醒を安定させる3つのリズム

「眠りと覚醒」は、全ての人が毎日行う営みである。そして、「良い眠り」は誰もが求めるものである。そのため、ちまたには快眠をうたったさまざまな記事や番組、グッズであふれている。読者の皆さんも一度は快眠のために何らかのグッズに手を伸ばされたことがあると思う。もちろん、それで快眠につながったのであれば言うことはないが、お手軽に快眠を得ることは往々にして難しい。つまり、グッズはあくまで快眠を得るための補助なのだ。最も大切なことは、日頃から「からだの睡眠力」を高める生活である。今回は、からだの睡眠力である、眠りと覚醒を安定させる3つのリズムについて紹介する。

リズム① 朝[夜]になったら起きる[眠る]リズム

人には、朝になったら起きる、夜になったら眠るというリズムが備わっている。このリズムは、概ね1日( 約24時間)の周期で動いているため、概日リズムと呼ばれている。概日リズムは、年代に応じて動きが変わる。一般的に、思春期から青年期にかけては後退するため、中学生から高校生くらいは、「遅寝―遅起き」リズムとなる。反対に、高齢期には前進するため、「早寝―早起き」リズムとなる。

概日リズムは、目の奥に位置する中枢時計「視交叉上核」が光を感知することで調整される。起床後2時間くらいの間に30分程度、自然光や高照度の青白い人工光を目から取り入れることで、概日リズムは前進する( ただし、太陽を直接見ないこと)。つまり、早く眠ることができるからだになる。一方、寝る数時間前から、青白い人工光を目に浴びることで、眠気を後退させてしまう。すなわち、横になってもなかなか眠れないからだになる。概日リズムを安定させるためのキーワードは「光」である。

リズム② 疲れたら眠るリズム(ホメオスタシス)

概日リズムと連動して動いているリズムである。「疲れたら」という表現には少々語弊がある。すなわち、激しい運動( 例えば、運動不足な人が登山する)をした日はよく眠れるということではない。これは、日中を通して、いかに覚醒している時間を維持できるか、言い換えると昼寝をしないか、にかかっている。夜に向けて、からだの睡眠欲求( 睡眠圧)を高めるのだ。

図1 概日リズムとホメオスタシスの関係

出典:Waterhouse J, et al: J Physiol Anthropol 31:5,2012, 2012

 

リズム③ 体温が下がったら眠るリズム

ここでの体温とは「深部体温」を指す。深部体温とは、脳の温度と捉えるのが正しい。つまり、脳の温度が下がることで眠りに誘えるのだ。では、深部体温はどうすれば下がるのだろうか。昔からの育児の知恵として、赤ちゃんの手足が温かいと眠いサインであることが知られている。まさにその通りで、深部体温の放熱は手足から行われる。

深部体温は通常、概日リズムの動きと連動している。就床―起床時刻が一定に保たれている人は、就床時刻に近づくと深部体温が低下する。にもかかわらず、冷え性の人は、手足が冷えているため深部体温の放熱が妨げられてしまう。体温が下がったら眠るリズムのキーワードは「頭寒足熱」である。

対策

近年では、睡眠に良いとされる対策を正しく伝えるメディアが増えてきている。それでも、「○○すれば快眠」というように、適切な睡眠習慣だけを伝えるものが多い。しかし、眠りと覚醒を安定させる3つのリズムを理解すれば、さまざまな工夫が可能となる。

▼対策例 ①  朝日を浴びる

朝の光を効率よく目から取り入れる方法を日常生活の中で想像してみよう。太陽を視野に捉えながら出勤するなどが考えられる。反対に夕方以降は暖色灯の部屋で過ごす。

▼対策例 ②  日中は外出する

家にいるとどうしても寝床の誘惑に負けてしまうことが多い。それであれば、日中の眠くなる時間帯を見つけ、その時間にカフェに行ったり買い物に出掛ける。

▼対策例 ③  入浴時刻を工夫する

寝る直前の入浴は深部体温を上げてしまうため、寝る1時間程度前に調整する。個人差があるので、あらかじめ入浴から何分後にぼーっとしたり眠くなったりするかを把握しておくと良い。寝床の冷え性対策も忘れずに。今回挙げた対策例以外にも、たくさんの対策案が工夫できる。日々過ごす環境に眼を向けながら、できるところから実践し、あなたの「睡眠力」を高めてみてはいかがだろうか。

フォントサイズ-+=