2026

06/03

老いゆく親との付き合い方と介護に至る前の心構え

  • 介護

川内 潤
NPO法人となりのかいご・代表理事

隣の介護(43)

親の健康に衰えを感じた時、ショックを受ける方が少なくありません。いつまでも元気だと思っていたのに「もうすぐ介護が必要になるかもしれない」と、心配や不安が湧き上がってくるかもしれません。そんなときに参考にしたいのが、ラジオパーソナリティーでもあるコラムニストのジェーン・スーさんが父親との関係性を綴った話題作『介護未満の父に起きたこと』(新潮新書)<※1>です。

彼女とは、あるサイト記事で対談をしたこともありますが、その考え方は私が提唱する“親不孝介護”(『親不孝介護 距離を取るからうまくいく』(日経BP)著者:川内潤・山中浩之)<※2>に通じるところがありました。

今回はジェーン・スーさん流の父親との付き合い方を紹介すると共に「親の老いを受け入れること」が上手くできずに悩むAさんの事例をもとに親の介護に至る前の心構えについて考えたいと思います。

ジェーン・スーさんと父親との関係性

「介護が始まった途端に親子関係が悪くなった」と感じる場合、もともとの親子関係を度外視し、一気に距離を詰め過ぎたことが原因であることがほとんどです。

ひとり娘のジェーン・スーさんは若い頃に父親とのあつれきを感じる経験をしており、接点を増やすことがお互いのためにならないと知っているため、互いの距離感や生き方に線引きをしています。

そのため一人暮らしをする80代の父親のケアをビジネスライクに考え、親子で取り組むプロジェクトとしてサポートしてきました。電話をすることがあっても、日々のケアはアウトソーシングし、父親の家に行くことはほとんどないそうです。

【 Aさんのケース】

父親の老いに戸惑う

Aさんの父親は会社員として定年まで働き、母親は専業主婦として支えてきました。Aさんにとって父親は、威厳があり尊敬できる存在でした。

そんな父親が自宅で転んだと母親から連絡があり心配になったAさんは、半年ぶりに帰省をしました。母親から「トイレを失敗するようになった」「今まで簡単にできていたことができなくなってきた」と聞きショックを受けたAさん。

母親も父親が何かを失敗するたびに、強い口調で責めてしまい自己嫌悪に陥ってつらそうです。父親も塞ぎ込んでいて、Aさんはどうしたら良いか分からなくなってしまいました。

家族以外からサポートを受ける

Aさんの父親のように一家の大黒柱として威厳のある存在だった人こそ、衰えを感じると本人も周囲もその変化の受け入れに時間がかかる傾向があります。Aさんの母親の場合、父親ができなくなったことに対して、手助けをし過ぎて負担がかかってしまっているようです。

母親はAさんと同じようにショックを受けていて、頭では分かっていても父親の変化に悲しさや不安からいら立っている状態です。父親も自分の変化に折り合いをつけようと考えていたとしても、失敗したことに対して責められ続けると気力をなくしてしまいます。

こういった状況が長く続く前に、家族以外からのサポートを受けることをお勧めします。例えばデイサービスに通うことで、母親は自分の時間を持つことができ、心に余裕が生まれます。そうなると、お互いが心地よくいられる方法を考えられるかもしれません。父親も同世代と話すことや母親と離れて過ごす時間を持つことで、新しい気付きがあるかもしれません。

また、支える側(Aさんの母親)が家族以外のサポートを受け入れない場合もあります。そんな時は、家族だけで母親を説得するのではなく、地域包括支援センターにご相談ください。家族間だけで解決をしようとすると、共倒れのリスクも高まるので「まずは相談」と覚えておいてください。

親の介護で自分の生活を犠牲にしない

「親の介護は子どもが担うもの」「親のために頑張るもの」と自分の生活を犠牲にする関わり方は、お勧めできません。ジェーン・スーさんは、「根本的な問題解決は目指さず、当面うまくいくことを目標」に父親と関わっています。

親のケアを頑張るほど、心の余裕を失い乱暴な関わりになっていき、むしろ後悔が強くなるケースもあります。まず自分の人生を大切にした上で、今の自分に何ができるかを考えることが、親の人生を尊重することにつながります。

親との距離感や境界線を意識する

親にできないことが増えていくのを、間近で見続けるのはつらいものです。それでも、老いを止めることは誰にもできません。

ジェーン・スーさんはある時、父親の荒れた部屋を見て愕然としたそうです。生活能力を失いつつある父親に対し、この事態に建設的に対応する方法はないかとビジネス書を読み込み、父親の生活を立て直すノートを作成しました。

また、父親を“大物アーティストのミック・ジャガー”になぞらえ、「自分は大物アーティストのイベンターとして、あくまでも気持ちよくステージに立ってもらうことが私の仕事。相手は世界的なビッグアーティストで、気まぐれであり理不尽な態度を取ることもあったとしても腹を立てない。あくまでも自分は裏方であり、ビジネスライクに接する」と考えていたそうです。

親との関わりにおいて、ジェーン・スーさんのように互いが穏やかでいられるよう、捉え方を工夫することは非常に有効です。このような捉え方をするには、「自分と親の人生は別のもの」というスタンスが必要不可欠です。だからこそ、直接の介護にハマってしまう前に、改めて親との距離感や境界線を意識しておくことが重要になります。親の老いをきっかけに、自分のこれからや人生観を考える機会にもなります。まず、親の介護を俯瞰して冷静に考えられる余裕を持つことが非常に大切です。

※1 『介護未満の父に起きたこと』(出版社;新潮社/著者:ジェーン・スー)

https://www.shinchosha.co.jp/book/611098/

※2 『親不孝介護 距離を取るからうまくいく』(出版社;日経BP/著者:川内潤・山中浩之)

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