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「テレワークが仕事と介護の両立に有効ではない」ワケとは?

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川内 潤
NPO法人となりのかいご代表理事

ウェブ限定記事(2021/11/1公開)

隣(となり)の介護(16)

コロナ禍が長引く中、家族介護のためにテレワークを積極活用される方が増えています。コロナ前から「仕事と介護の両立にテレワークは有効」と考えられてきましたが、企業において介護相談を受けている立場としては、残念ながら、介護とテレワークの相性はあまり良いとはいえません。

●テレワークが家族介護に与える影響とは

会社からの出勤制限によって、テレワークを余儀なくされている方の中には、介護サービスの利用を自粛して、家族の世話への関わりを増やしたり、「自宅でのテレワークになったから、何かあったら気軽に電話して」と親に伝えたりしている方が少なくありません。しかし、介護が必要な家族がいる場合のテレワークには、個々人が意識的に介護との距離を縮め過ぎないような意識付けが必要です。なぜなら、いつまで続くか分からない介護のために、結果として恒常的に関わる形でテレワークを活用してしまうと、どうしても下記のようなプロセスで、介護をする側・される側、双方にデメリットが生じることがあるからです。

「ウェブ会議中に何度も話し掛けられる」「日中は細切れの仕事となってしまうので、資料作りはどうしても深夜作業となる」など、仕事と介護の両立に有効とされてきたテレワークがきっかけで、親の依存を引き出して仕事に集中できなくなり、時には介護離職を考えるケースもあります。

「デイサービスの送迎時に家族が自宅にいる必要がある」ことから、通勤時間の削減を目的にテレワークを活用されている方もいらっしゃいますが、ケアマネジャーへの相談やヘルパーの配置で、家族が付き添わなくても済むケースが少なくありません。

●調査結果からも介護テレワーカーの不安が明らかに!

私もコメントを出した、2021年5月26日付の東京新聞に『介護とテレワーク 難しい両立 負担感と不安増し疲弊 職場は孤立させない配慮を』という記事が掲載されました。この記事に掲載されている調査結果から、“介護しながらのテレワーカー”たちは次のような不安をより強く抱えていることが分かりました。

この調査結果からも、仕事と介護の両立を目的としたテレワークには注意が必要、と考えることができます。

●「家族介護のためのテレワーク」が有効なケース

一方で仕事と介護の両立にテレワークが有効なケースもあります。

※定期受診については、自費ヘルパーを活用したり、訪問診療に切り替えたりすることで、家族付き添いの頻度を減らすことができます。

●「家族介護のためのテレワーク」をする前に、まずは客観的な視点で考えて!

コロナ禍でのテレワークの日数や利用条件が緩和される中で、「テレワークを活用して親孝行を」と考える方もいるかもしれません。ですが、一度、客観的な視点で「親をサポートする最善の方法がテレワークで見守ることなのか」ということを考えていただければと思います。客観的な視点を持つために、地域包括支援センターやケアマネジャーに相談してみるのも良いでしょう。もし、周りに、親の介護のためのテレワークをして上手くいっていない様子が伺い知れる方がいたら、一人で抱え込まぬように地域包括支援センターやケアマネジャーなど、介護のプロと一緒に考えることを勧めてみてください。

コロナ禍で親の生活に不安を感じる機会が増えています。「この機会にテレワークをして親の生活を見守っていこう」と、いきなり親との距離を縮めてしまうと、なかなか後戻りすることができません。「家族介護のためにテレワーク」を始める前に、いま一度、立ち止まって考える機会を持っていただければと思っています。

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