山口 竜太 さん
神戸学院大学薬学部6年
2016/01/15
多業種の連携で職種間の隔たりをなくす
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ノンテクユニバーシティ!
医療系学生インタビュー(9)
薬局で働くことは在宅医療を形作っていけるチャンス
「患者さん」という人はいない
――薬学部に進んだきっかけは何ですか?
山口 大学入試の時に、自分の得意科目で入れる学部が薬学部だったんです。薬剤師になりたいとか、医療に興味があるとかではなく、高校の時に化学と英語が得意だったので、それで入れる大学を探して、この大学の薬学部に入ることになりました。
――今はどのような学生生活を過ごしていますか?
山口 6年生なので、授業を受けながら関西を中心に、主に「ノンテクユニバーシティ!」の活動をしています。
――「ノンテクユニバーシティ!」とはどのような団体ですか?
山口 「ノンテクユニバーシティ!」は、医療系学生にノンテクニカルスキル教育を届けようという団体です。大学で学ぶ専門知識を、僕らはテクニカルスキルと呼んでいます。しかし、医療現場では思考技術、プレゼンテーション技術、マネージメントなどの非医療技術、つまり“ノンテクニカルスキル”も重要です。それを大学で学ぶ機会がないので、じゃあ自分たちで勉強会を作ろうと思い、仲間と創ったのが「ノンテクユニバーシティ!」です。僕が実習で感じたのは、「患者さん」という人はいないということです。「患者さん」には一人一人名前があり、それぞれ今まで歩んで来られた人生がある。例えば、高血圧の患者さんと一言で言っても、個々の人の生活スタイルや想いは全く異なります。そんな方々に画一的な医療だけを提供していて良いのだろうか。患者さん一人一人に最適な医療を届けたい。初めてノンテクニカルスキルに触れた時に、これが今の医療に足りないことだと感じました。しかし、それを大学で学ぶチャンスがなかった。だから自分たちで勉強会を立ち上げました。
――思い出に残る出会いや出来事はありますか?
山口 4年前の2011年3月、東日本大震災が起きた時、アメリカで研修を受けていました。毎日忙しい中、何か日本でえらいことが起こっているなってことは分かっていました。しかし、全然情報を得る時間がなく、「大変だなぁ」くらいにしか思っていませんでした。そんな中、街のカフェを訪れた際に不思議な体験をしました。カフェの店員が「お前は日本人か?」といきなり話し掛けてきたのです。「日本人だよ」と答えると、店員が全員私の所に集まり始め、「お前の家族は大丈夫なのか? 日本とお前の家族のために祈らせてほしい」と言って、みんな業務の手を止めて祈り始めたんです。こんなことが何度もありました。この経験をして、「人って良いな」って純粋にそう思いました。アメリカという遠い国にいても、「人と人ってつながっているんだ」「優しい気持ちがあるんだ」と感じて、純粋にもっと世界を良くしたいと思うようになりました。僕の夢は世界を良くすること、と常に言っているのですが、この時にこの夢ができました。
仕事ができるだけでなく、仕事を作れる薬剤師に!
――就職が決まったそうですが、就職を決めたポイントは?
山口 今、ホットな話題として在宅医療があります。病院であれば病棟に、薬局であれば在宅に出て行く、薬剤師が自ら患者さんにアプローチしていくという業務に変わってきています。僕が就職する予定の薬局も在宅の業務を手厚くやっています。店舗によってはほとんど調剤室におらず、ひたすら薬局から出て、患者さんの側に行き、話を聞きながら服薬指導をしたり、時には処方に関して医師や看護師、介護士さらにはケアマネジャーといろいろ話し合いをしたりします。外来の調剤業務はある意味で完成形が出来上がってきています。もちろんまだまだ改善の余地はありますが。しかし、在宅医療に関してはまだ薬剤師も手探り状態です。ということは、これから自分たちで在宅医療を形作っていけるチャンスだと言えます。そう感じたことが、その薬局に就職を決めた理由の一つです。
――多剤大量処方の問題について聞くことがありますが、どのように思いますか?
山口 そうですね。私の就職先の薬局では、医師が処方を書く時に、薬剤師や看護師も処方を医師と一緒に考えています。処方を書くところから多職種連携を取る、という取り組みをしています。今までの歴史があるので、この連携は簡単なことではありません。やろうと言ってもなかなかできないところもあります。ですが、そこは一歩ずつかなと。私たちは今、いろんな学部の学生が集まって勉強会や交流会を開催しています。私たちの中では職種間の隔たりは一切ありません。これからこういう学生が社会に出て、貢献できるようになってきたら医療の形も変わっていくんじゃないかなと期待しています。
――どのような薬剤師を目指していますか?
山口 薬剤師としてというよりも、これから社会に求められる人材として僕がイメージしているのは、仕事ができるということは最低ラインで、仕事ができるだけではなく、仕事を作れる人、自分たちでものを作っていける人になるべきだということです。今の医療の業務、特に薬剤師の業務では、どんどん機械化が進んでいます。機械にできなく、人にしかできないことは何かというと、創造力、何かを作る力だと思います。医師にしても薬剤師にしても、それぞれの専門知識を持った上で、それをより活かせる医療環境や社会環境を作れる人になることが重要じゃないかなと思っています。