中井洸我 さん

徳島大学医学部医学科6年生

2024/05/01

「病院で救えない命」を救うビジネスを

スポーツドクターを目指して徳島大学へ

医療系学生インタビュー(64)

――医師を目指したきっかけはなんですか?

中井 「人の身体や考えについて理解したい」と思ったことです。高校3年生までは医師になる気はなく、教師を目指していました。中学・高校での人間関係に思うところがあり、教育の分野からそのモヤモヤに向き合いたいと思っていたためです。

当時入っていたサッカー部の顧問が数学の先生だったこともあり、数学教師が良さそうだな、くらいに思って進路を設定していました。

でも、いざ受験を前にして、本当にこれでいいのかなと疑問が出てきたんです。本当に自分の興味があることって何だろうと考えたとき、“人間自体”かな? というところに行き着きました。教育や人間関係に関心があったのも人間の考え方に興味があったから。サッカーに励んだり、メンテナンスで身体に向き合ったりできたのは身体に興味があったからかなと。そう思うと、もっと深く人間について知りたいと感じるようになり、医学部を目指す方針に切り替えました。

――徳島大学を選んだ決め手はなんですか?

中井 腰痛治療の名医である西良浩一先生の存在が大きいです。自分がサッカー部時代に腰痛に悩まされていたこともあり、「この先生に学んでスポーツドクターを目指したい!」と思い徳島大学に進学しました。

1年次から西良先生の運動機能外科研究室に配属してもらい、臨床研究に取り組んだり、民間病院で整形外科の外来や手術を見学したりと、貴重な経験を積ませていただきました。

――1年生の頃からずいぶん熱心ですね!

中井 行動力があるのが僕の持ち味なので、やりたいと思ったことは最初からドンドンやっていました。その中で、それまで気づかなかった問題が見えてくるようになりました。

臨床に触れて感じたのが、救わなければならない人たちは思ったよりたくさんいるということです。
例えば整形外科の外来では、高齢者の転倒事例が本当に多く見られます。これって、ただ治ればいいのではなく、栄養状態の悪さとか、街に段差が多いこととか、そういうところから変えないと解決できない問題なんだと気づかされました。

この頃から、栄養面や環境づくりなどアスリートのために活かされている技術を一般に応用し、サイエンスの領域から予防医療に取り組むことが、社会全体の健康につながるのではないかと考えるようになりました。そう思うようになり、千葉大学予防医学センターや名古屋大学AIメディカルセンターには大変お世話になりました。コロナ禍であったので、大学を超えて勉強をさせていただきました。

コロナ禍を経て選んだ起業の道

――会社を立ち上げたとお聞きしましたが、どんなきっかけで起業をしようと思われたのでしょうか?

中井 始まりは、コロナ禍でいろいろな行動が制限されるなか、「徳島県という地域の社会で、医学生の自分に何ができるだろう?」と考えたことです。同期や先輩と一緒に地域でのアクションをいくつか起こしたのですが、そのうちの一つだった“産後うつ”を予防するための学生団体が、今の会社につながっています。

団体では、中・高校生と大学生がチームになり、親などにヒアリングしながら“産後うつ”の対策を考えて発表するという活動を行いました。「赤ちゃんが泣いている理由を割り出すアプリ」「子育てを学べるボードゲーム」などさまざまなアイデアが生まれ、ここでのことをただの案で終わりにしたくないと思ったんです。この“産後うつ”対策をはじめ、ヘルスケアのアイデアを社会に実装するためにどうしたらいいかを考えたとき、その手段として起業に踏み切りました。

――会社ではどんな事業を行っていますか?

中井 「医療を身近に、自然に」をミッションに掲げ、いつの間にか健康になれる社会づくりを目指しています。特に、人体や病態の医科学と、データサイエンスやテクノロジーやデザイン、エンタメとの共創によって、人と社会のwellbeingに貢献する事業開発をしています。その中でも、まずは学生団体で生まれたアイデアであるアプリとボードゲームを実際に製品化しました。アプリは「あわベビ(外部サイトにリンク)」といいます。

子育ての生き生き伸び伸びとできる社会を目指して、自然に、パパママが楽しみながら赤ちゃんと一緒に成長して行けるようなサービスとして、赤ちゃんの泣いている理由が分かるようになるアプリです。赤ちゃんの泣き声を、AIを用いて音声解析し、泣いている理由を推定します。育児の不安を少しでも和らげ、子育て中の孤立を防ぐ一助になればと思い開発しました。

すでにアプリストアに公開しており、5000件以上ダウンロードされています。アップデートも重ね、さらにブラッシュアップしているところです。東証プライム上場企業との共同研究や自治体との実証実験も進めています。

医療とビジネスを両輪に、社会全体を健康にしたい!

――将来はどんな活動をしていきたいですか?

中井 データや持続可能性、エビデンスを大切にしながら、スタートアップとして事業を展開し、テクノロジーの力で「病院で救えない命を救う」ことを目指しています。

また、One Young Worldの日本代表に選抜されたことやStanford Universityに留学したことをきっかけに、グローバルに研究や事業を展開していきたいです。ただ、そこに到達するには「病院で救える命」の範囲をきちんと知ることも必要だと感じています。そこで、まずは医師として臨床の現場に向き合い、その経験を糧にビジネスに取り組もうと考えているところです。

会社としては、医療とビジネスの発想を両輪として進んでいくために、株式市場への上場を目指しています。多くの人に投資をしていただくことで、ビジネスとしてキャッシュを回しながら社会に貢献していくというのが理想形です。

――後輩たちへのメッセージをお願いします。

中井 私の師匠は、「核心は愛であり、愛を表現するのは実践だ」と仰いました。実践は、私の生涯のテーマです。実践の中で、「自分の個性」や「創っていくべき、理想的な社会」を探し続けています。そして、今は昔よりも、目指すべき社会の解像度が上がったことで、より一層大胆に個性を使って実践ができています。

同じように見える“すだちとかぼす”も、大きさだけでなく、香りや味、栄養価が違います。このように、同じように見えても、一人一人素晴らしい個性を持っていると思っています。必要なのは、裏返しになっている個性のカードをたくさん“めくる”ことです。“めくる”作業をしなければ、個性は誰にも見えません。それはもったいない! 新しいアクションを起こすのは、カードを“めくる”絶好の機会です。そして、その機会をたくさん持てるのが、時間も機会も多い学生の特権だと思います。「本当は何かやりたい」と少しでも思う人は、ドンドンやってみてほしいです。どんな結果になったとしても、きっと自分の可能性を“めくる”機会になります。

もし、何か相談したい、背中を押してほしいという方がいたら、よろしければ、ぜひ僕にでも連絡をください。せんえつながら、挑戦の一助になれば僕自身もすごくうれしいです。待っています!

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