志村 優至 さん
富山大学医学部医学科6年
2022/05/01
人をつなぎ地域をつなぐ 「コネクティヴドクター」になりたい
医療系学生インタビュー(52)
Contents
違和感から選んだ医学部への道
―医師を目指したきっかけは何ですか?
志村 一番大きいのは、社会への違和感に気付いたことです。好奇心旺盛なタイプで大学受験時には興味の対象を絞れず、医学部ではない学部に入りました。進学で愛知から東京に出たこともあり、世界が一気に広がって、違和感が気になってきたんです。
例えば僕が夜10時にマックに行くと、3歳くらいの子とお母さんが食事をしている。それを見て「3歳のとき、10時には寝てたな」「これが夕飯かな」という違和感を抱くんです。今思えば、別に毎日じゃないかもしれないし、そうするしかない状況なのかもしれない。お母さんを責める気持ちはありません。でもやっぱり公衆衛生的には、3歳の子どもは10時には寝ていたほうがいいし、食事はマックじゃないほうがいいなとか。もちろんたまにはいいんですけど。食生活や予防医学の観点から健康にアプローチしたいと思うことが増え、医学部を志望するようになりました。
―コロナ前後で学生生活の違いはありますか?
志村 実はあまり感じていません。例えば部活でストリートダンスをしているのですが、みんなで集まって踊る機会は減っても、動画でのレッスンや、家や近くの公園で一人で踊ることはできます。参加している学生団体の活動でも、以前からオンラインミーティングなどをしていたので、そういう意味ではそこまでの変化はないです。
2020年には、大学のオンライン新歓を主催する機会もありました。対面で行っていたサークル紹介の代わりに、部活動団体と新入生が交流できる場を設けたかったんです。もともと福井県立大の友達がやり始めて「いいじゃん!」と思ったので、富大でもぜひやろうと。自分の部活だけでなく、大学全体でそういう機会が欲しかったので、たくさんの新入生に参加してもらえて嬉しかったです。学内でも学外でも、形は変わるけどやることは変わっていないという感覚ですね。
在宅医療は「借り物競走」
―今までに影響受けた恩師や先輩はいますか?
志村 紅谷浩之先生という、福井で在宅診療されているドクターです。先生のクリニックが主催する地域研修に参加したときに初めてお会いしました。僕は当時から予防医学には興味があったのですが、子供の教育などといった目線が中心で、高齢者や地域医療という部分には関心が薄かったんです。しかし研修の中で、地域で生まれる多世代の交流が結局子供にも影響を与えると感じ、幅広い世代に関わる重要さを知りました。
また、紅谷先生のクリニックでは、医療的ケアの子供たちとお出掛けをするという活動もされています。僕も『軽井沢キッズケアラボ』というイベントで、“寝たきり”のバギーに乗っている子供たちと一緒に新幹線で軽井沢まで行きました。新幹線に乗るって子供たちにとって初めての挑戦なんです。そういう場面に立ち会って、彼ら彼女らがすごいパワーを持っているということを学びました。全国から集ったボランティア参加者との出会いも、非常に勉強になりました。さまざまな教えや経験をとおして、将来像に大きな変化を与えていただいたという意味で、紅谷先生との出会いは自分にとって意味深いです。
―将来どんな医師になりたいですか?
志村 「コネクティヴドクター」になりたいです。実はこれは自分で作った言葉なのですが、人と人をつなぐ役割というイメージを込めています。以前、総合在宅医療クリニックの市橋先生が、「在宅医療は借り物競争だ」と仰っていました。それは、自分だけでやり切れない部分でも「この人ならできるから、あの人の悩みはこの人とつなごう」という連携で成り立つということです。人々をつなぐ役割なら、人の違いを受け入れるという自分の強みを活かして活動できると思っています。
現在も学生団体の一つでコミュニティーナースカレッジに所属しています。地域で人々の暮らしに溶け込み、健康なときから支援していくのが「コミュニティーナーシング」で、これは看護師に限らず誰でも実践できます。大学のサークルでは、「とやま社会的処方プロジェクト」という形で、地域の方々と一緒にコミュニティーナーシングを実践しています。
また、医療の枠におさまらないこととしては、子供の人権教育などにも関心があります。例えば、多様性自体はあって当たり前のものだけど、日本の教育には自分と違うものを拒みがちなところがある。そういう感覚を少しずつ変えることにも取り組みたいです。
―卒業後はどうされますか?
志村 僕は、特定の地域というよりも、地域医療の概念が好き。地元の愛知も好きだし、富山も好きになったし、福井や軽井沢も好きになったし、故郷がどんどん増えていっている感覚で、どこに行ってもいいなと思っています。なので、最初はいいと思う先生がいるところで学び、その先どこに行くかは決めていません。
つなぐという意味で、多拠点で活動してみたいという思いもあります。友人が「旅する薬剤師」という働き方を運営しているんです。本当に旅のような感覚で、求人があった地域の薬局で何カ月かずつ働く、いわゆるフリーランスの薬剤師という形。そういうスタイルで、医療だけでなくその他自分のやりたいことも絡めて、いろんな働き方をする医師が増えたら面白いのかなと考えています。