原 鈴枝 さん
防衛医科大学校医学科6年生
2022/07/20
「ハイパー」な循環器内科に自分らしく向き合いたい
医療系学生インタビュー(53)
実習中にIVRの検査室に通い詰め、研究スタート
―医師を目指したきっかけは何ですか?
原 子供の頃、授業やニュースを通して世界の人々の暮らしを目にしたことが原点です。日本ではないところで生まれ、自分よりもたくさんの苦労している人がいること、そして自分はそれを全然知らなかったことに気づき、「どうして同じ人間なのに生まれた場所だけで差があるのだろう、その人たちのために自分にできる最大のことは何だろう」と思うようになりました。通っていた中学の先生に相談したところ、「そういう考えを持っているなら医学部もいいのでは」と勧められ、納得して目指し始めました。
―防衛医科大学校に進学したのはなぜですか?
原 昔から、ずっと同じ環境にいると「狭いな」と感じてしまう性格だったので、周りの環境を変えたいと思ったことが大きいです。地元である大分大学の医学部には同じ高校からの進学者も多いので、「狭い」かなと思って。県外の学校を選んで受験し、合格した防衛医科大学校に入りました。卒業後、自衛隊で一定期間働くことなどの決まりはありますが、その分自衛隊という組織に守られているとも感じる学校です。その中で、学んだりチャレンジしたりする権利を最大限に活かせる環境だと思います。
―学外では何か活動をしていますか?
原 AMSA Japan (Asian Medical Students’ AssociationJapan)という医療系学生団体の運営をしています。つい先日も、加盟学生同士のオンライン交換留学を支援する活動を行いました。
コロナ禍ではAMSAの活動もオンラインがメインになり、オフラインの大規模な交流会や海外留学などはなかなか難しい状況です。ただ、全体的に見ると良い変化も多いと感じます。特に大きいのが、オンラインでやりとりするツールの開発が進み、スマートフォンやパソコンを開くだけで遠くにいる人と会えるようになったことです。外出の制限や申請が厳しい大学からすると、外との交流が手軽になるのはうれしい変化でした。また、1枚画面を隔てているからこその丁寧さ、相手を気遣いながら対話できるのも良いところだと思っています。
―学内では研究にも取り組んでいるとのことですが、どのようなものでしょうか?
原 学内の循環器内科の先生の研究室で、1年ほど前から取り組んだ研究です。今年の6月に、循環器内科の関東甲信越地方会で研究発表をしました。心臓の冠動脈という血管についての研究で、一定数の人に見られる「冠動脈が心筋の中を貫いている構造」について扱っています。胸痛や虚血性心疾患と同じような兆候が出ている人について、冠動脈造影CTを行い、どのくらいの確率で冠動脈が心筋を貫く構造を持っているのかといったことを統計学的に解析しました。
研究を始めたきっかけは、実習中に先生が声を掛けてくださったことです。IVRという手法で、レントゲンを撮りながら造影剤を流して動的に血管の様子を見るというものがあり、それを私が毎日検査室にこもって見学していたんです。その様子を見た先生が「良かったら研究してみない?」と言ってくださって。最初は自信がなかったのですが、せっかくなら頑張ろうと思って始めました。
積み重ねた努力は、大きな経験として返ってくる
―将来はどのような医師を目指していますか?
原 患者さんのいい見本というか、「こんなふうになれたらな」と思ってもらえるような医師になりたいです。私は小学3年生の時に、生死を分けるような大事故に遭いました。それで、例えば病院実習でお子さんのオペなどに入らせていただくときには「私もあのときオペ室に入ったな」とか、自分の経験が患者さんと重なるところがあります。
今ではその事故もいい経験だったと思うし、何か失敗をしたときにも「失敗できていることがもう幸せ」なんて思う。いつでも人生のボーナスステージを生きているような気持ちです。そういう人生経験を、患者さんと接するときに生かせればと思います。
配属は、陸幕の循環器内科を第一志望にしています。いちばんの理由は心臓が好きだからということに尽きますね。働き方にも魅力を感じます。循環器内科はとても忙しくて、俗にいう「ハイパー」な科なのですが、その分やりがいがある、というところが自分には合っているかなと。現場を楽しみながら、やりたいことをやるのが目標です。
―座右の銘を教えてください。
原 外向的な気分になりたいときと、内向的で落ち着きたいとき、それぞれ思う言葉があります。
外に行きたいなと思うときの言葉は“ Imagination is more important than knowledge. ”。高校生の頃から好きだった、アインシュタインの言葉の一部です。やっぱり知識を集めるだけではなくて、発想というか、新しい何かを生み出すことは楽しい。医学の勉強をしていると特にそれを感じます。この言葉を思い出すと、広い世界や新しいことに対してワクワクできる気がします。
逆に外に出て疲れてしまったときに浮かべる言葉は、マザー・テレサの“What can you do to promote world peace? Go home and love your famil y.”です。「外にいるだけじゃなくて、自分が今いる場所だったり家族だったり親しい人を大事にしなさい、それが世界平和につながるのだから」という素敵なメッセージで、思い出すと心が落ち着きます。
―医師を目指す後輩へのメッセージをお願いします。
原 この人生が最後の人生なので、自分自身を生きるのがいちばん良い、ということでしょうか。自分のやりたいことがいちばん。それが夜遊びだったとしても良いと思います。全てが経験なので。海外の友達と話すときに、私はいつも“Great great efforts will come back as great great experiences.”って言うんです。時間とか労力を使って何かをすることは骨が折れるけれど、その努力は絶対に大きな経験として返ってくると、私は思っています。