2023年8月
生きることを励ます川柳
江畑 哲男 さん
(一社)全日本川柳協会副理事長、麗澤大学オープンカレッジ講師
私事で恐縮ですが、四月下旬に心臓弁膜症の手術を受けました。手術は成功し、おかげさまで経過は順調です。五月上旬に退院をし、現在はリハビリ中です。
何しろ大きな手術だったので、入院と入院後の日々がとても長く感じられました。とりわけ、ICU(集中治療室)の四日間はつらいものでした。入院患者のなかには、夜中に騒いだり、看護師さんに食ってかかるような人もいました。ビックリしました。孤独に耐えられなくて、八つ当たりでもしたのでしょうか?
それはともかく、小生の場合は川柳のおかげで孤独を乗りきることができました。折々の喜怒哀楽を五七五に刻みつけることができたのです。かなりシビアな作品も少なからず生まれました。一句だけ紹介しましょう。
「同意書を書くたび手術怖くなり」(江畑哲男)。手術前日の作でした。
コロナ下の三年間で川柳を生き甲斐にした高齢者が数多くいました。川柳のおかげで自粛・巣籠もり生活を乗り切れた、というお便りも頂戴しました。コロナ下に川柳を初めて創った高校生たちがいました。青春の思いを五七五にぶつけてくれました。
そして今回、小生自身が川柳に励まされたのでした。入院前後からリハビリ生活の今日に至るまで、人間を詠む川柳は毎日の生活とともにあります。まさしく「生きることを励ます文芸」、それが川柳なのだと実感している今日この頃です。
それでは、佳作の発表に移りましょう。今回はたくさん掲載いたします。
治ればさ良い思い出さ通院も(のほほん)
胃カメラを飲んで正常はしご酒(かめれおん)
別腹と食べたスイーツ脇腹に(微笑亭さん太)
健康は気力だけでは保てない (雅)
減塩は素材の味がよく分かる(ともきん)
気づいたら健康器具で部屋埋まり(りりぃ)
肝脂肪なのにペタンコ我がバスト(なっちゃん丸)
フルムーン旅のお供は万歩計(みやび)
シミに皺隠せて便利マスク顔 (りんご)
ウォーキング疲れる前にまた明日(コスモス)
エレベーター三秒見つめ階段へ(明燈)
夏休み孫と一緒にラジオ体操(せいこ)
週一回外科と内科の二刀流(けんちゃんマン)
三年間気が付きゃ風邪をひいてない(どらまにあ)
散歩道伸ばして見つけた推しの店(伊都はにわ)
LDLアイドルなのかと子に聞かれ(猫田しろ)
水分とヤル気も少し補給する(月影 都)
さて、お待たせいたしました。今回のベスト3は下記の作品です。
◎聞く耳は持たぬ強気な診断書(ごん太)
天位にはスゴイ句を選びました。前半の「聞く耳は持たぬ」が強烈! 後半で診断書を「強気な」と擬人化しています。しかしながら、作者へ。くれぐれもお大切になさってくださいな。
○一万歩歩いてビールぐっといき(ゆうゆう)
目に見えるようです。優れた描写力です。「ぐっといき」の言い回しが活きています。雰囲気を醸し出すのに成功しました。
○どうするは家康よりも腹回り(やんちゃん)
楽しい句ですねぇ。話題の大河ドラマのタイトルをちゃっかり借用して作品化しました、茶目っ気たっぷりに。
今回の川柳
ベスト作品
-
聞く耳は
持たぬ強気な
診断書
ごん太
-
一万歩
歩いてビール
ぐっといき
ゆうゆう
-
どうするは
家康よりも
腹回り
やんちゃん