Vol.137 2017年1月号
日本語は面白い
江畑 哲男 さん
(一社)全日本川柳協会常任幹事、早稲田大学オープンカレッジ講師
おもしろ日本語の発見3
外国人にとって分からない日本語の筆頭は、「すみません」であろう。
「すみませ〜ん。この和菓子、三つ下さい」。外国人は思う。「お客なのに、なぜ日本人はお店の人に謝るのか?」と。
「スミマセン、スミマセン、お嬢さん。ハンカチ落としましたよ」。「親切に教えてあげるのに、なぜ『スミマセン』を使うのか?」。厚切りジェイソンが居あわせたならば、「ホワイ、ジャパニーズ!(何か変だよ、ニッポンジン)」(笑)と、叱られそうな言葉遣いである。
謝罪に傾きがちな日本語
同じ気持ちを述べようとする場合でも、「感謝」を前面に出すのが英語の表現。対して、「謝罪」の言葉で言い表そうとするのが日本語だ。謝罪的表現に言い換えると、不思議に日本語らしくなる。
以下、具体的に比較をしてみよう。
①相手にご馳走になったとき。
〈英語〉 「ご馳走してくれてありがとう」
〈日本語〉「お金を使わせちゃって、すみません」
②長文の手紙を送ったとき。
〈英語〉 「最後までお読みいただいて、有難うございました。」
〈日本語〉「乱文・乱筆、ご免くださいまし。(失礼いたしました)」
③時間を取っていただいたとき。
〈英語〉 「ご多用中、ご理解とご協力に感謝申し上げます。」
〈日本語〉「お忙しいところをすみませんでした。」
如何であろうか。並べてみると、両者の違いはなかなか興味深いものがある。
日本語というのは、「謝罪」言語なのかも知れぬ。「悪い」とは思っていなくとも、「すみません」と口にするのが日本語の表現なのである。「謝罪」の形の方が、何となく収まりがよいのだ。
一方、英語表現を見てみると、
‘‘Thank you very much for your cooperation.’’
‘‘Thank you very much for your kindness.’’
‘‘Thank you for your time.’’
といった言い方に何度も出くわす。感謝の言い回しである。
日本的文化と英語的文化。文化的背景から来る、両者の言語の違い。
来たるべき東京五輪を前に、こんなことに着目するのも面白いかも知れない。
それでは、入選一歩手前の作品から。
▷リオ五輪出場選手の健康美 (チャップ・スター)
▷もう十分生きたと言いつつ医者がよい (明拓)
▷旅支度まず入れるのは薬です (美子)
▷生ごみの曜日間違え持ち帰り(サンカイエ)
▷朝が来て生活音で無事を知る(しゃりべん太郎)
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