Vol.128 2015年5月号
川柳のユーモア
江畑 哲男 さん
(一社)全日本川柳協会常任幹事、早稲田大学オープンカレッジ講師
ユーモアの効用 その3
回文(かいぶん)も面白いものです。
回文。上から読んでも下から読んでも、同じになるフレーズ。一種の言葉の遊びでもあります。
「トマト」「キツツキ」「新聞紙」「竹やぶ焼けた」などが代表例でしょうか。
回文は、日本語の特徴を背景としています。すなわち、日本語は「かな一文字=一拍」の長さで発音します。英語の発音とは違います。しかも、その一拍一拍の長さがすべて等しいのです。「あ・め」、「き・っ・て」、「け・ん・こ・う」、「え・む・ぞ・う・く・ん」という具合に通常は発音します。
回文の本はいろいろあります。回文で書かれた童話もあるんですよ。その名も『いなかいかない?』(落合正子著、本の泉社)。小生オススメの一著です。
回文には、短歌や俳句もあります。その傑作は、何と言っても次の二句でしょう。
品川にいま住む住まい庭がなし
力士手で塩なめ直し出て仕切り
回文演歌歌手登場
突然ですが、手賀沼ジュンという若手芸人をご存じでしょうか? ネパール生まれの千葉育ち、なんだそうです。その彼が、昨秋「歌ネタ決定戦二〇一四」という番組で優勝を果たしました。
「逆さの道は魑魅(ちみ)の坂さ」というタイトルの、歌詞すべてが回文になっている歌を歌って優勝したのです。テレビで見ました。
意外性があって面白い歌でした。ホントはその歌詞を全部ご紹介したいのですが、紙数に余裕がありません。ゴメンナサイ。ネット等でお調べください。
そのネットで、手賀沼ジュン氏のホームページを見たら、これがまた面白いものでした。回文を活かしたブログを発信しているのです。
タイトルだけでもご紹介しましょう。「予定聞いてよ!」、「Goよ、兵庫!」、「あけおめ! 新年会に行かんねんし、目をケア」。日本語に潜む遊び心を堪能した気分です。
さてさて、今月はずいぶん投句者が増えました。嬉しいですね。
入選一歩手前の作品からして、レベルが高かったようです。ご覧いただきましょう。
▷お薬のためにお腹を空けておく(福島ヒロコ)
▷医者通いできる元気と老いの意地(村上定)
▷どっこいしょと言って動けば怪我は無い(一湖)
▷万歩計遠回りしてお買い物 (老沼正一)
▷太りすぎゆるキャラかと笑われる(河村めぐみ)
Vol.128の
ベスト作品
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◎トップ賞
回復期
プライドもまた
起き上がり
久保田留美子
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生きがいを
糧に寝たきり
予防する
しむらむし
-
青空に
力をもらう
万歩計
竹澤聡