Vol.119 2014年2月号
川柳の上達法 その5
江畑 哲男 さん
(社)全日本川柳協会常任幹事、早稲田大学オープンカレッジ講師
はじめに
川柳上達法の5回目、テーマは推敲の続きです。
推敲すると言っても、一体どうすればよいのでしょうか?
今月はこの辺から解説をしていきましょう。
一番手っ取り早くて、意外に破綻も少なく上手に直せる方法があります。それは、上五と下五(それぞれ「かみご」「しもご」と読む)をひっくり返すという方法です。例句を挙げてご一緒に考えてみましょう。
上五と下五のチェンジ
「朝のラッシュ誤解が怖い手はバンザイ」(Kさん)
上は新人の作品。なかなか、面白いところを突いています。思わずニヤリとしちゃいました。
しかし、残念ながら上五も下五も字余りになっているのです。
発想は面白いのですが、これではいけません。推敲のポイントの第一はリズムは整えること、です。
リズムを整えるとは言っても、「朝のラッシュ誤解が怖い手バンザイ」などと、助詞を勝手に抜いてしまう方が時々おられますが、感心いたしません。変な日本語はかえって句に違和感を覚えさせてしまいます。
そこで、先ほどの手法を用いましょう。「上五と下五のチェンジ」という手法です。
「手はバンザイ誤解が怖い朝のラッシュ」。
この際、下五の「朝のラッシュ」を五音の単語に言い替えてみます。たとえば「満員車」は如何でしょうか。
「手はバンザイ誤解が怖い満員車」。
ユニークな見つけの、しかも中七(「なかしち」と読む)・下五とリズムが整いました。これはもうどこに出しても恥ずかしくない立派な作品になりました。
A→B→Cという時系列を転換してみよう
「上五と下五のチェンジ」という手法を論理的に説明するならば、「A→B→C」という時系列の転換、ということなのです。つまり、新人の川柳作法は、とかく「○○で、××をして、こうなった」というパターンが多いのです。この時系列の思考と作句法を、文芸的に再構築するのが「上五と下五のチェンジ」という手法なのです。一度ぜひチャレンジしてみて下さい。
さて、今月も入選一歩手前の作品から。
▷和食からWASYOKUに出世して元気 (正看)
▷健康をやたら気にする五十前 (ミミニョロ)
▷検査値を主治医が捲るiPad (伊藤正美)
▷美食家が年貢収めた尿酸値 (蒼い朱鷺)
Vol.119の
ベスト作品
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◎トップ賞
鬼ごっこ
孫が本気で
攻めてくる
ひめさゆり
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ストレッチ
冬将軍に
立ち向かう
うずまき君
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餅を食う
喉にひとこと
言い聞かせ
野口良