2023

03/10

養護教諭は女性の仕事?

  • 保健

芝 裕介
宮崎県立日南くろしお支援学校

保健室ってどんな場所(4

1.「男性」も養護教諭になれる?

皆さんは、養護教諭(保健室の先生)と聞くと、どの性別を思い浮かべますか?おそらく、「女性」の養護教諭をまず思い浮かべませんか?実は、数は少ないですが、「男性」の養護教諭も存在します。養護教諭の起こりは女性ですが、長い年月を経て、「男性」の養護教諭は全国で増えています。

第1次世界大戦前の1905年、トラコーマという目の感染症が流行したのをきっかけに、学校看護婦が初めて岐阜県の小学校に配置されました。その後、養護訓導、養護教諭と名称は変更しますが、学校看護「婦」の文字通り、当初は女性が担っていたと推測されます。

少々養護教諭の話から逸れますが、例えば、病院などで働く看護師は、以前は、男性は看護「士」、女性は看護「婦」、と言葉で性別が分けられていました。2001年の法改正により、「保健婦助産婦看護婦法」から「保健師助産師看護師法」に名称が変更され、2002年には性別に関係なく「看護師」の名称で統一されました。養護教諭という言葉だけで見ると、どの性別か一目では分かりませんが、女性だと「養護教諭」、男性だと「男(男性)の養護教諭」と、男性の場合には性別を付けて紹介いただくこともあります。

2.仕事内容に性別は関係ない。

スキルラダー研究会の中村富美子先生が開発した「スキルラダー」に養護教諭の執務に関する項目が挙げられていますが、これらの中に、「女性にしかできない」「男性にしかできない」項目はありませんでした。ということは、性別によって「できる仕事・できない仕事」は存在しません。各学校に配置されれば、1人の専門職として職務を全うします。

例えば、体重測定は男性の養護教諭にはできないことでしょうか。また悩めるお子さんの話を聞いたり、擦り傷の手当をしたりすることは男性には荷が重いでしょうか。

病院の中で働いている医師や看護師、薬剤師、作業・理学療法士にも男性はいます。これらの職業では男性と女性で業務内容は区別されていないと思います。患者さんがどの性別でも、関わるスタッフが同性であるとは限りません。

時に、女性の養護教諭もこのように思うことがあるのではないでしょうか?

「正直、異性の性教育や、性に関する相談に不安がある……」

男性である私も思うことはあります。

その場合は、1人で頑張らずに、周りの異性の教員に助けを求めますし、助けを求めてもいいと思います。私たちは、専門職として知識・技術を持ち、対応できるようにしていますが、どうしても対応に配慮が必要な場合があります。子どもが異性の教員による対応に抵抗を感じる、もしくは養護教諭が対応に配慮が必要と感じた場合は、子どもと同性の教員に対応を依頼することもまた、子どもや職員に対する配慮、と考えます。

だからこそ、子どもたちに最善の対処ができるよう、本研究会の「スキルラダー」を活用する、または各種研修などを通して自己研鑽を行うなど、スキルを高めることが養護教諭の資質向上に求められます。

養護教諭が働くモチベーションの一つに「子どもの健康のため」と考えている養護教諭もいると思います。その思いの軽重は「性別」によって変化することはないと思います。

3.全国の男性養護教諭の分布

令和3年度の学校基本調査の結果によると、全国で80人の男性の養護教諭・養護助教諭がいるようです。平成26年の46人と比べると8年間の間に34人増えています(学校を退職、もしくは教育委員会などへの出向などで減る場合もあります)。多い県では、1県に12名、少数で1~2名いますが、男性の養護教諭が全くいない県は16県ありました。割合にすると、全養護教諭数の0.2%が男性です。養護教諭が1000人いたとしたら、そのうちのたった2人が男性です。

「男性の養護教諭に会ったことがない」というのも仕方ありません。教員は学校間の異動がありますし、保健室の先生は各学校に1名もしくは2名ですので、男性の養護教諭が県に1名しかいない場合は、お子様の在学中に出会えることの方が珍しいのかもしれません。出会うきっかけがないため、「男性がいるとは思わなかった」と感じるのも仕方のないことかもしれません。

プライベートな組織で、「男性養護教諭」に関する団体も複数あり、定期的な講習会を開催し、養護教諭の専門性を高めたり、男性養護教諭について普及・啓発活動をされたりしています。

もし、男性の養護教諭について興味のある方がいらっしゃいましたら、お住まいの県に男性がいないか、話を聞いてみてはいかがでしょうか? もしかすると、あなたの身近にいるのかもしれません。

4.これからの展望

多様なジェンダーの中、「男性」の養護教諭について、性別をあえて文字にして表現することは時代に合っていないことに感じるかもしれませんが、やはり数的にも、みなさんのイメージ的にも、圧倒的に女性が多い職業といえます。

しかし、私たち養護教諭は「子どもの健康のため」に活動しています。この思いに「男性」・「女性」の性別によって違いはありません。子供や社会の未来を考える1人の職業人です。

「男性」・「女性」といった性別による職業の区別がなくなり、学校保健を担う、1人の専門職「養護教諭」として、活動へのご理解とご協力をいただけることを願っています。そして、子どもたちの健やかな成長と発達に向け、まい進していきます。

 

参考:文部科学省「令和3年度学校基本調査」

男性養護教諭友の会編「男性養護教諭」,東山書房,2019

 

スキルラダー研究会の概要

ウェブサイト https://skill-ladder.com/

・団体名:SLIPER(すりっぱ)

Skill Ladder for Improvement and Evaluation Running of School Health Nursing

・理念:養護教諭の能力育成を追求すると同時に、子どもやその家族、さらにその地域で暮らす人々の健康に貢献すること

・メンバー:

荒木田美香子 [ 川崎市立看護短期大学 ]

内山 有子   [ 東洋大学]

加藤 恵美 [ 静岡市立清水船越小学校 ]

齋藤 朱美 [ 東京都立深川高等学校]

芝 裕介 [ 宮崎県立日南くろしお支援学校 ]

高橋 佐和子 [ 神奈川県立保健福祉大学 ]

中村 富美子 [ 静岡県沼津市立大岡中学校 ]

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