2022

10/01

親の介護は自宅か?施設か?「いざとなってからでは、老人ホーム」が難しい理由

  • 介護

川内 潤
NPO法人となりのかいご・代表理事

隣(となり)の介護(21)

企業で介護相談を受けていると「親の介護はできる限り自宅で、いざとなったら老人ホームに」と考えている方が多いようです。しかし、介護で手一杯になると「いざとなったら」を見極める心の余裕がなくなり、介護する側が先に倒れてしまうケースも少なくありません。そうならないためにも、次のような介護の現実とその対処法を知り、良好な親子関係を保つための選択をしていただければと思います。

【1】無理のない介護体制づくりが大切

~在宅介護の現場で目にしたケース~

●娘が認知症の母親と向き合えず接触を避け、不衛生な部屋に放置

●介護が必要になった親を外から施錠し、部屋に閉じ込める

極端な例かもしれませんが、「在宅介護」にこだわり、『家族の絆』が損なわれ、「介護が早く終わってほしい……」という思いに悩まれている方がいます。

大切なのは、家族として愛情を持って接する余裕を生むための介護体制づくりです。

【2】早くからの介護サービス利用がおすすめ

「親の介護は家族でするべき」と懸命に頑張った結果、介護を受ける親のことを考える余裕がなくなり、急かされるように、自宅か、施設かの選択を迫られる家族をたくさん見てきました。

「いざ」というときのために、最期を迎える場所は自宅か、施設かも含めて冷静に見極めていくためにも、ホームヘルパーやデイサービスなど、早い段階からの介護サービスの利用が大切です。他人のサポートを受けて日々を過ごすことで、「(介護を受ける親は)どんな環境だと穏やかで居られるのか?」と考える余裕を持つことができます。

【3】「自宅ではもう限界!」となってからでは遅いワケ

日々の介護で手一杯になってしまうと良い介護施設を探す余裕がなくなってしまいます。そのため介護施設に満室などと断られると「何とか最期まで在宅で……」と、介護離職をせざるを得なくなった方がいました。

そうならないためにも、要介護度に関わらず、早い段階から「老人ホーム」の見学や申し込みをしておくことが、介護する人の心に余裕をつくり、良好な親子関係を保つことにつながります。

【4】元気な今だからできることは、“その人らしさ”を知ること

「親が何を望んでいるのか」を中心に考えることで、社会的な体裁ではなく、本当の意味で親にとって良い選択は何か考える大きなヒントになります。あなたが抱く親のイメージと「親の望み」が必ずしも一致しているとは限りません。親が元気なうちから「自分は〇〇を大切に生活したいけど、父さんは?」といった対話や、ケアマネジャーなどの客観的視点を借りて深掘りすることが重要です。

そして、「親の介護は施設に……」となったときは、以下を参考にしていただければと思います。

●「老人ホーム」入所の検討はプロと一緒に

老人ホームの入所も、客観的に家族介護を見続けてきたケアマネジャーと一緒に考えていきましょう。「親を老人ホームに入所させていいの?」といった悩みなどをケアマネジャーにぶつけてみることも、お互いの信頼関係づくりにつながります。また、介護サービスの組み換えやご家族の介護に対する考え方次第では、在宅介護を継続できる場合があります。

●老人ホーム入所の前にするべきこと

入居後の生活を穏やかにするためにも、やはり、他人のサポートを受けて生活する日々に慣れる必要があります。

良い介護施設を選ぶには、複数の施設を見学し比較検討をするための時間の確保が重要です。コロナ禍で見学が難しくとも、現場のスタッフから話を聞くなど、できる限りの情報収集をしておきましょう。希望者が多数で待機期間が必要な「特別養護老人ホーム」は、入居基準の要介護3になった時点で申し込むことをおすすめしています。

●よりよい老人ホームを選ぶ方法とは?

「もう在宅介護は限界だ!」と焦って、すぐに入所できる老人ホームを選ぶと、「思った以上に利用料が高額だった」「フロアに職員がほとんどいない」など入居後のトラブルに巻き込まれてしまうことがあります。入所後のトラブル回避のためにも、私が介護相談などでご家族と一緒に老人ホームを探してきた経験より作成した“よりよい老人ホームの選び方5カ条”(※1)を参考にしていただければと思います。

親のことを想い、時間をかけて考えた結果であれば、介護の場所を「自宅」「施設」のどちらを選択しても間違いではありません。その考えるプロセスこそが親孝行なのではないでしょうか。

 

※1:資料ダウンロード https://www.tonarino-kaigo.org/download/

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