2018

05/15

薬剤師を取り巻く状況の変化

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小黒 佳代子
株式会社メディカル・プロフィックス 取締役、株式会社ファーマ・プラス 取締役、一般社団法人保険薬局経営者連合会 副会長

ドクターズプラザ2018年5月号掲載

薬剤師のお仕事(1)

毎日、多くの患者に処方箋どおりに早く正確に……。

現在、いわゆる調剤薬局といわれている処方箋調剤を中心とした業務を行っている薬局は、コンビニエンスストアよりも数が多いといわれています。地域住民にとって、とても身近な薬局のはずですが、薬剤師の仕事は皆さんにどのように見えているのでしょうか。医療者でさえ、薬剤師の仕事のイメージは様々なのではないかと思っています。実際に、薬剤師の仕事を題材としたテレビドラマや映画はほとんどありません。医師や看護師については、離島で地域医療に取り組む姿や、プレッシャーの中で葛藤する医療者のヒューマンドラマなどがあり、観るものはそこに共感することができますが、薬剤師の仕事は、具体的なイメージがつかないために、私たちの医療現場での葛藤も皆さんの共感を得られないのかもしれません。

ですから、薬学部に進学する理由も医師や看護師に比べて情熱的な意志を持って進んできた学生は少なくて当然でしょう。私も学生の前で講義をする機会がありますが、薬学部に進学した理由を聞くと「人と話すのが苦手なので」「資格が欲しかったから」「給料がいいから」というようなものが多く聞こえてきます。

私自身も特別な目標があって薬学部に進んだわけではありませんでした。高校時代に父から薬学部を勧められた時、薬剤師は病院だけでなく製薬会社はもちろん、化粧品、食品、公衆衛生など、薬を扱う様々な場所に活躍の場があることを聞かされ、大学在学中にも将来の仕事について考える余地があると薬学部に進学しました。医師は医学部卒業後には医師として働く人が圧倒的に多く、看護師も同様ですが、一方薬剤師は卒業後も製薬会社の営業を選択するなど、薬剤師として仕事をしない人も多くいるということです。

私は大学卒業後、薬剤師の仕事のイメージがそれほど無いままに大学病院に就職しました。来る日も来る日も1000人以上の外来患者の薬と入院患者の薬を、処方箋どおりに早く正確にご用意するのが私たちの最も重要な仕事でした。ある時、時計が壊れて修理に出すと、店員さんから「時計の中にたくさんの粉が入っていたけれど、何のお仕事ですか?」と聞かれ薬剤師であることを伝えると、「へ〜、薬剤師さんって、あの薬のことをみんな知っているんですか?」と言われました。

次々と開発される薬剤を覚えて、適切に調剤するという業務が薬剤師の専門性であると考えていた私は、閉塞感を覚えながらも仕事をしていましたが、「私はまるで大きな調剤マシンの部品の一部で、私でなくてもこの仕事は出来る」といつも思っており、結婚を機に何の未練もなく大学病院を3年間で退職しました。

薬剤師の役割

今から年近く前、子供も大きくなってまた仕事を始めようというタイミングが来た時、私は当時急速に増え始めていた調剤薬局で仕事を始めました。「処方箋どおりに早く正しくお薬をご用意する」ということについては、ブランクがあってもすぐに取り戻すことができました。

大学病院で働いていた頃と比べると、患者さんが目の前に居ながら直接話ができるということはとても楽しく、私を目当てにさまざまな医療機関の処方箋を持っていらしてくださる患者さんや、血液検査の結果などの説明だけを目的にいらっしゃる患者さんも増えて、やりがいも感じていました。調剤することが早くできる分、患者さんとゆっくりとお話ができるし、大学病院での経験も無駄ではなかったと思うことができました。

最近の薬剤師を取り巻く状況は刻々と変わってきています。高齢化社会が進み、医療の担い手が足りない現状において、薬剤師への期待は高まっています。薬剤師の中には、病棟で活躍する薬剤師や病棟を飛び出して在宅まで関わっている薬剤師、災害医療や救急医療で活躍する薬剤師もいます。薬局薬剤師の中にも、在宅チーム医療の薬剤師として力を発揮し、医師同様に患者からの信頼を得ている薬剤師もいて、最近では新聞やテレビを通じてもそのような薬剤師にスポットを当てられることも増えてきました。

今月から始まる連載を通じて、皆様が薬剤師の役割をご理解され、薬局がより身近に感じられるようになれば幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

 

○豆知識;全国の薬局数

平成28年度末現在の薬局数は58,678か所で、前年度に比べ352か所(0.6%)増加している。また、人口10万人当たりの薬局数は46.2施設で、都道府県別にみると、佐賀県が64.7施設と最も多く、次いで山口県が58.5施設、広島県が57.0施設となっている。一方、福井県が36.6施設と最も少なく、次いで千葉県が38.1施設、埼玉県が38.4施設となっている(厚生労働省「平成28年度衛生行政報告例の概況」より)。

※薬局の定義;医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律第2条第12項に規定する、薬剤師が販売又は授与の目的で調剤の業務を行う場所をいう。
ただし、病院若しくは診療所又は飼育動物診療施設の調剤所を除く(厚生労働省「平成28年度衛生行政報告例の概況」より)。

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