2021

01/24

肌荒れと冬のかゆみ

  • スキンケア

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三宅 浩行
戸塚共立あさひクリニック院長

ドクターズプラザ2021年1月号掲載

皮フ科医のお肌のはなし

はじめに

町はコロナウイルスに伴う注意が続き、多くのお店の前で消毒薬のボトルが見掛けられます。そして今までなら冬に入ってから増えていた「手がカサカサ」「ひび割れが痛い」などのお話が早々と外来で聞かれるようになりました。また手だけでなく、お子さんからご高齢の方まで多くの方が季節を問わず乾燥肌で悩まれています。そこで今回は「肌荒れと冬のかゆみ」についてお話をさせていただきます。

肌荒れの原因とは?

肌荒れは皮膚の水分不足から始まります。では皮膚の水分はどこに蓄えられているのでしょう? 皮膚は外側から表皮・真皮・皮下組織の3層構造を呈しています。その表皮のさらに一番外側で角質層という0.02mmというごく薄い層が作られているのですが、皮膚の水分はおおむねここに蓄えられています。

角質層を作っているのは角質細胞という細胞です。角質細胞はそれ自体に天然保湿因子( 以下、NMF )という水分をとどめる物質があり、また角質細胞どうしをつなぐ物質の中にセラミドという脂質が含まれています。セラミドは脂質なのですが水とも脂とも結合できる性質があり、水分とセラミドがきれいに層を作って結合することで( ラメラ構造と言います)皮膚の水分は蒸発せず、皮膚に潤いを保たせ、皮膚を保護することができるのです。さらに皮膚に分泌される皮脂によっても水分蒸発は防がれています。冬は気温が下がることで代謝が減少しNMF、セラミド、皮脂の3因子がそれぞれ減少している傾向にあります。さらに、せっけんや洗剤、アルコールなどで保湿物質は減ってしまうため乾燥肌は悪化しやすくなるのです。

そして乾燥肌が強くなると角質細胞が整わなくなり、外からの刺激を受けやすくなります。さらに刺激を受けてかゆみを感じさせるC 神経という神経が表皮の近くまで伸びてきているため、刺激→かゆみの反応が進んできます。かいてしまうと皮膚は炎症を起こして刺激を誘発し、刺激→かゆみ→かく→刺激→かゆみ……の悪循環になります。ここまでくると湿疹として慢性化したり、炎症だけでなく皮膚の損傷を来し皮膚の亀裂( ひび割れ)となってきます。

乾燥対策と保湿剤

保湿剤はセラミド、NMF、皮脂、各々を補給するものが市販されています。セラミドは人間の皮膚に6種類含まれ、1~6まで番号が付いています。このうちセラミド1、2、3の保湿力が強いため、保湿剤に「セラミド配合」とある時は1、2、3が含まれていればより安心です。NMFの代表は尿素です。尿素はクリームなどで市販されていますが保水力はあまり高くなく、乾燥が強いと保湿力が落ちるので塗る回数を多めにしてください。傷などがあると刺激になるので注意です。またヒアルロン酸やヘパリン類似物質など、NMFに似た真皮に含まれる水分含有成分もあります。

皮脂は基本油分なので、ワセリンやオイル類が使われることが多いです。以前は「皮膚の水分を整えたら油分でふたを」と考えられていました。しかし水分は油分の隙間から蒸発してしまうことが多く、セラミドの方が保湿力が高いことが分かっています。酸化した油分はニキビなどの原因にもなるので油分の塗り過ぎには注意してください。

乾燥からくるかゆみについては、まずは角質細胞を整えて刺激を減らすことです。赤みやかき傷がなかったらかゆみ止めを使う前にまずは十分保湿をしてください。市販や処方薬のステロイド外用剤は炎症を抑えるのが目的なので、皮膚に症状がないときのかゆみ止めとしての使用は好ましくないときもあります。

手は洗剤などで保湿成分が抜けやすく、乾燥から一気にひび割れまで達してしまうことがよくあります。洗剤などを使うときは手袋をぜひお勧めしたいところですが、素材によって刺激が増えたり、乾燥が悪化したりすることも多々あります。いくつか試して自分に合った素材を選んでください。この冬は消毒、手洗いと合わせて保湿も忘れずに! そして穏やかで健やかな生活が迎えられることを願い、この連載を終了させていただきます。ご愛読をいただきありがとうございました。

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