2026
07/04
エボラ出血熱(エボラウイルス病)
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感染症
静岡県立農林環境専門職大学 生産環境経営学部 教授
日本医療・環境オゾン学会 副会長
日本機能水学会 理事
新微生物・感染症講座(26)
2026年5月、大西洋を航行中のクルーズ船内で起きたハンタウイルス集団感染に続き、アフリカのコンゴにおけるエボラ出血熱のアウトブレイクが報じられました。ハンタウイルスは齧歯類、エボラウイルスはコウモリが自然界での宿主と考えられている人獣共通感染症です。WHO(世界保健機関)は、ハンタウイルスについては「一般的な人への感染リスクは低い」と評価していますが、エボラ出血熱については「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言しました。しかし、日本においてはいずれの感染症も発生のリスクが低いことを、国立健康危機管理研究機構や厚生労働省が報じています。今回は日本での感染リスクは低いものの世界的には緊急事態と評価されたエボラウイルスについて解説します。
エボラウイルスとは?
エボラウイルスは、フィロウイルス科エボラウイルス属のウイルスで、新興感染症であるエボラ出血熱の病原体です。遺伝子であるRNAを保護するらせん状のカプシドを脂質膜であるエンベロープが包み、ウイルス粒子は糸状の細長い形態をしています。
1976年にザイール共和国(現在のコンゴ民主共和国)で、マラリア感染が疑われた男性患者が出血熱症状(粘膜出血および多臓器不全)を引き起こし、新種の感染症が疑われました。同時期にスーダンでも同様の感染症が報告され、それぞれ新種のウイルスが発見されました。これらのウイルスはフィロウイルス科のマールブルグウイルスの新種かと思われましたが、その後も似たようなウイルスの発見が続き、2002年にエボラウイルス属に分類されました。2005年に国際ウイルス分類委員会は、最初にザイールで発見されたウイルスをザイールエボラウイルス、スーダンで発見されたウイルスをスーダンエボラウイルスと名付けましたが、学術的にも当初からザイールエボラウイルスを「エボラウイルス」と呼んでいたため、2010年にザイールウイルスをエボラウイルスと呼称することが復活しています。
そのため、「エボラウイルス」の表記は科名、総称の場合とザイールエボラウイルスを指す場合が混在しており、どちらを指しているのか注意が必要です。これらのウイルスに、今回コンゴでの流行で検出されたブンディブギョエボラウイルスを加えた3種が、ヒトでの大規模なアウトブレイクを経験しています。この他、レストンエボラウイルス、タイフォレストエボラウイルス、ボンバリエボラウイルスの合計6種が、これまでに発見されているエボラウイルスの仲間です。
感染経路、症状と治療
エボラウイルスは、自然界でオオコオモリを宿主にし、動物を介してヒトに感染すると考えられています。感染者から非感染者への伝播は、症状の現れている感染者の血液、体液や排泄物との接触によって成立します。空気感染はしません。動物からの感染経路は推定の域を脱しませんが、野生動物からの感染もヒトでの感染と同様に体液や排泄物との接触によると考えられています。エボラウイルスの流行地域では、感染者や野生動物との直接的な接触はもちろんのこと、生肉(ブッシュミート)などの食肉との接触にも注意が必要です。
エボラウイルスは、感染者の体液に接触することで非感染者の粘膜あるいは傷口から侵入します。体内に入ったウイルスは、マクロファージや樹状細胞などの貪食機能を持つ免疫細胞に感染し、増殖しながら全身へと広がり、免疫機能を低下させます。4~21日(多くが7~10日)の潜伏期間の後、突然の発熱、頭痛、筋痛などにより発症し、腹痛、嘔吐、下痢から全身症状が出現して、点状出血や粘膜出血などの出血傾向が表れます。これまでのアウトブレイク全体での致命率は25~90%と幅がありますが、エボラ出血熱症例の致命率は50%程度です。日本では治療薬やワクチンの承認はされていませんが、アメリカではザイールエボラウイルスに対するワクチンと治療用抗体製剤が2020年に認可されています。しかしこれらのワクチンや薬剤は、今回検出されたブンディブギョエボラウイルスには効果がありません。
コンゴから世界へ広がるのか!?
エボラウイルスによる感染症は、発見当初からエボラ出血熱(Ebola hemorrhagic fever)と呼ばれていましたが、必ずしも出血を伴わない症例も多いことから、WHOではエボラウイルス病(Ebola virus disease)と呼称しています。日本でも「エボラウイルス病」の呼称は使われていますが、2026年現在の感染症法では「エボラ出血熱」として1類感染症に分類しており、「エボラ出血熱」が広く使われています(注)。
1976年のザイールエボラウイルス発見から50年、人類がこれまでに経験した大規模なエボラウイルスのアウトブレイクはアフリカ大陸に限られています。前述のようにエボラウイルスは空気感染しませんし、感染患者の血液や体液などに直接接触しない限りは感染しないため、アフリカ以外の地域でパンデミックを引き起こす可能性は極めて低いと考えられています。日本では依然としてエボラ出血熱に関しては緊急性の低い状況ですが、はしか(麻しん)や百日咳の報告が続いており、時期的に細菌性の食中毒にも気を付けてお過ごしください。
(注)本コラム中では、感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)の表記にならい、「エボラ出血熱」と記した。