2022

10/15

眠気を飛ばす! NGツール、NGワード

  • 睡眠

岡島 義
東京家政大学人文学部 心理カウンセリング学科 准教授

睡眠と健康5

生活習慣を整えることで、睡眠・覚醒リズムはその大部分が改善、向上します。ただし、どんなに睡眠・覚醒リズムが改善、向上していても、それを邪魔するものがあります。それは眠ろうとしている脳を揺り起こしてしまうこと。簡単にいえば、興奮や動揺によって覚醒度が上がってしまうのです。今回は、「覚醒度」をテーマに、睡眠を妨害してしまうNGツール、NGワードについて紹介していきましょう。

こころ(精神)はからだ(身体)を上回る

生活習慣の改善は、いわば「眠るための環境・身体づくり」です。就寝時刻に向けて、いかに眠りやすい環境に整えていくかがカギとなります。ところが、眠りやすい環境に整えているはずなのに、眠れない場合があります。

次の状況を想像してみてください。

●パートナーと口論になって、イライラしたまま寝床に入った。
●就寝時刻が近づくと、「今晩も眠れなかったらどうしよう」と心配になる。
●友人から、「あの人、あなたの悪口言いふらしているわよ」と知らされた。
●深夜放送のスポーツ競技で、応援しているチームやアスリートが勝利した。

こんなときは、それまでの眠気がどこへやら。楽しい・嫌いに関係なく、あなたのこころ(精神)が大きく揺さぶられると脳が興奮してしまいます。これが就寝直前であれば、いつもの就寝時刻、言い換えると、身体が眠ろうとする時間になっても気持ちが高ぶっていて眠れません。

脳を興奮させるのは、こころ(精神)だけとは限りません。目に当たる光の種類によっては脳を興奮させる作用があります。光には明るさ(ルクス;lux)と色(ケルビン:K)とがあります。明るさは照度といい、強くなるほど眠気を飛ばします。色は、色温度といい、高くなるほど青味が増し(いわゆるブルーライト。光の三原色で白く見える)、低くなるほど赤味が増します。つまり、夜の時間帯にどのような光を浴びているかによって、寝つきが変わってくるともいえます。遅くとも就寝1時間前には、脳の興奮を静め、穏やかモードに入る必要があります。

脳を興奮させるNGツール

夜間に脳を興奮させるNGツールとその理由を、以下に挙げました。

●スマホやパソコン:スマホは光の影響というよりは、その内容(以下に挙げたチャット・メール、ネット動画・ゲーム、SNSなど)の方に問題があると考えられています。パソコンも同様に、見る内容に加え、ディスプレイの色温度の影響を受けます。

●チャット・メール(LINEなど):通知が来ると受動的に見てしまいますね。内容がうれしかったり、驚いたり、イライラしたりと、かなりこころが動揺します。また、「心配ごと」につながる可能性もあります。

●ネット動画・ゲーム(YouTubeなど):たいていは興味のある内容を見てしまうため、脳が興奮してしまいます。

●SNS(インスタグラムなど):リア充(現実の生活が充実している)な人と自分の生活を比べて落ち込んだり、好きなタレントの投稿に興奮したりと、興奮と動揺の温床です。

●心配ごと:明日のスケジュール(仕事や趣味)を考えたり、他人から言われたことにあれこれ悩んだりすることは、覚醒のための栄養ドリンクのようなものです。しかも、最悪なことに、それが習慣化すると、横になると考え始めてしまうという自動化現象に陥ります。

●時計:「今何時か確認する」という当たり前の動作ですが、時間を確認することで、「起床時刻まであと何時間しかない!」と焦りを生んでしまいます。これが覚醒度を上げることにつながります。

●本やテレビ番組の内容:本の中でも小説のように次が気になるジャンルは目が冴えてしまうことも。テレビはLEDが利用されていますが、近距離で見るわけではないので、やはり内容の方が問題になります。心を動揺させる内容(例えば、スポーツ観戦、悲惨なニュース)には注意が必要です。

●パソコンのディスプレイや白色の蛍光灯(LED電球も含む):そろそろ寝ようと思っても、目から取り込んだ高い色温度の光によって、寝つきが悪くなります。寝つきが悪くなることによって「心配ごと」が浮かんできたり(「眠れなかったらどうしよう」)、眠れないからとスマホやパソコンをいじり始めるきっかけにつながります。

NGワード

上記に挙げた「NGツール」は、使い方によっては寝つきを良くするものもあります。例えば、心配ごとが頭から離れない場合、何度も見たことのある映画や動画を観ることで、心配ごとから気がそれて眠りにつける場合があります。そのため、NGツールを使う場合に、NGワードが付随していないかも要チェックです。NGワードは次の通りです。覚え方は「青い国家(あおいこっか)」です。青一色の国は眠れなさそうですね。

:焦り(早く寝なくちゃ)
:驚き(えっ!?)
:怒り(腹立つ!)
:興奮(面白い!)
:つらい(もう嫌だ)
:感動(すごい!)

就寝1時間前には穏やかモードに

NGツールやNGワードを理解した上で、スムーズな入眠、快適な睡眠のために、就寝1時間前には、穏やかモードになれるような対策を立てましょう。

まずは、光によって覚醒度が上がらないよう、部屋の色温度を低くしましょう。可能であれば家全体、難しければ自室から始めましょう。間接照明やローソクの灯りは効果的です。ブルーライトをカットするPCメガネなどの使用もお勧めです。

次に、NGツールの中で、NGワードが付随するようなものはないかチェックしましょう。例えば、スマホをいつも見てしまう場合は、アプリの通知機能をオフに設定したり、スクリーンタイム、おやすみモードなどを利用するのがお勧めです。

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