2019

01/25

病院こそ、災害意識の向上を!

  • 病院建築

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服部 敬人
株式会社伊藤喜三郎建築研究所 執行役員 設計本部第二設計部長
一級建築士 認定登録医業経営コンサルタント

ドクターズプラザ2019年1月号掲載

病院建築(3)

「災害は忘れたころにやってくる」とは過去の言葉になったのでしょうか。異常気象が原因と思われる水害、土砂災害、風害等、痛ましい災害のニュースは後を絶たず、年を追うごとに増加傾向にあると感じているのは私だけではないはずです。その折、災害をテーマとした新聞記事、書籍、ネット、報道番組も数多く、知識や情報として災害に触れる機会は増えています。しかし普段経験することのない災害に向き合い、適切な防災対策を実践することは容易なことではありません。病院をはじめとする医療介護福祉の関係者に話を聞くと、災害への準備、取り組みには、かなりの温度差があるようです。何となく理解はしていても、何とかなるものと、状況の改善を後回しにしようする場面も多いのではないでしょうか。今回は、災害を通して病院建築を垣間見ることにします。

災害要配慮者は、国民の5人に2人、やがて半数に……

国民の3人に1人が高齢者となる節目の2025年を間近にして、高齢者を含めた、災害要配慮者は年々増加しています。災害要配慮者とは、高齢者の他、乳幼児・児童、障害者、入院者、妊産婦、外国人、地域によっては観光客まで含まれます。現在の統計では概ね4割の方が災害要配慮者に該当すると考えられています。以前は災害に弱い立場の人々を、災害弱者という言葉使いで表現していましたが、配慮すべき人々は近い将来過半を占め、特別に弱い者という感覚ではなく、当たり前の立場として認識されるようになりました。

国民の3人に1人が高齢者となる節目の2025年を間近にして、高齢者を含めた、再概要配慮者とは、高齢者の他、乳幼児・自動、障害者、入院者、妊産婦、外国人、地域によっては観光客まで含まれます。現在の統計では概ね4割の方が災害要配慮者に該当すると考えられています。以前は災害に弱い立場の人々を、災害弱者という言葉使いで表現していましたが、配慮すべき人々は近い将来過半を占め、特別に弱い者という感覚ではなく、当たり前の立場として認識されるようになりました。

われわれが受け止めなければならない災害の数々

災害の発生源は、「自然系」と「人為系」に分類することができます。地震、津波、火山、水害、土砂、雪害は自然現象から発生する「自然系」の災害です。そのスケールや特異性によって限界はあるものの、多くは立地計画を精査することにより減災は期待できます。

一方で、「人為系」の災害として考えられる火災は、木造建築密集地域等、立地による影響はあるものの、建物そのものの構造・建築・設計計画や人為的な側面など、さまざまな要因が関与します。身近な災害としての火災は、設計者も含め最も対応策の効果が問われる分野になります。一方、原子力、テロなど特殊な災害は、あたりにも専門性が強い分野ですが、近年の状況を顧みるに忘れてはならないでしょう。

このようにさまざまな災害が発生しますが、多くの災害要配慮者が利用する病院は、患者、利用者、家族をお守りする立場にあり、身近にどのような災害が発生し得るのか、どのような対応策が現実的であるのかを認識しておかなければなりません。

福祉施設よりも低い、病院の耐震化率は約7割

建物の災害対策には、立地計画、構造計画、建築計画、設備計画、人為要因などがあり、災害の種別により効果的な対処法は違います。しかしながら、発生した災害に対して実際に被災している現実を見ると、全国の数ある病院の災害対策は、減災に向けて十分とは言えない状況です。防災対策の現状としての指標となる、耐震化率と事業継続計画(BCP)策定状況を具体例として参照してみます。

平成29年9月厚生労働省の病院の耐震改修状況調査結果では、病院の耐震化率は72.9%(平成28年調査では71.5%)であり、このうち、地震発生時の医療拠点となる災害拠点病院及び救命救急センターの耐震化率は、89.4%(平成28年調査では87.6%)となっています。災害対策の最前線である病院で、未だ約3割が耐震化できていない状況は、対策不十分と言わざるを得ません。一方で平成28年3月調査の社会福祉施設等の耐震化率は89.6%(平成26年調査では87.9%)となっています。残念なことに病院の耐震化率72.9%の方が低いのです。

また、平成24年内閣府の調査結果による事業継続計画(BCP)策定状況は、医療施設7.1%、福祉施設に至っては4.5%であり、「策定中」「策定を予定している」を含めても、それぞれ4
0%、30%程度にとどまっています。医療、福祉を含め、災害時に事業継続が最も必要になる8業種の電気、通信、ガス、運輸、鉄道、放送では、35.5%〜66.7%であることを見ても、かなり低い数字であることが分かります。

災害発生の予測は難しいが、病院にあっての減災は必須です

筆者も東日本大震災の後、参加しているNPOの調査員として被災地域に赴いたことがあります。調査報告書では、防災対策の二つの課題として、「防災意識」「建物リスク」をあげました。防災意識に関連して、「日常の支援に手いっぱいの状況で、十分な災害対策の検討ができていない状況」や「訓練について、『避難誘導訓練』や『消火訓練』が主で、最も重要な『職員の参集訓練』の実施が少ない」現実が浮かび上がりました。また、建物リスクでは先ほど詳しく説明した「耐震性」の問題、さらには、最近特に現実のものとなっている浸水や土砂崩れのリスク、つまり立地に問題が多いことも分かりました。

次回「連載病院建築(4)」では、今回に引き続き、災害意識を身に付けるために配慮すべきことについて具体的なお話をしたいと思います。

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