2023

02/16

情報過多とこころ(脳)の疲れ

  • メンタルヘルス

西松 能子
立正大学心理学部教授・博士(医学)、大阪医科大学医学部卒業後、公徳会佐藤病院精神科医長、日本医科大学附属千葉北総病院神経科部長、コーネル大学医学部ウェストチェスター部門客員教授を経て現職日本外来臨床精神医学会理事、現在あいクリニック神田にて臨床を行う。

よしこ先生のメンタルヘルス(64)

情報は少ない方が幸せ!?

第4次産業革命は、コロナ禍ですっかり加速しました。オンラインが活用され、あっという間に進んだ在宅勤務から、少しずつ通勤が復活しましたが、毎日の通勤電車の中では、スマートフォンをチェックしている人が以前に増して目立つようになりました。タクシーに乗れば、QRコードから情報を取り込むことができます。道路を歩けば電光掲示板や広告のQRコードだらけです。何か疑問に思うことは、グーグル先生に聞けばあっという間に情報を得ることができます。私たちの周りには、今や情報が容易に大量に手に入ります。情報を早く有効に取り入れるための「倍速視聴」という言葉も聞くようになりました。情報をどのくらい大量に、どのくらい早く取るのか競争しています。

確かに、情報が多い方が少ないより圧倒的に幸せになれるような気がしますが、どうやらそうでもなさそうです。情報の選択肢が多いことで悪影響もありそうです。情報が多すぎて選べず、どうしたら良いか分からなくなってしまうことがあるでしょう。実際、選んだ後でうまくいかないと、「あっちを選べば良かった」と後悔したり、したいことが多くなり過ぎたりして混乱することも多いでしょう。

情報が増え、ストレス(負荷)が増えると、満足感が低下すると共に、脳自体も疲れるという報告があります。ある研究では、多言語で難しい単語が使われている課題や、複雑な計算問題を行い、脳に負荷をかける実験を行ったところ、ストレスホルモン(コルチゾール)の分泌量が増加し、前頭葉の右側の血流が上昇したという結果が出ました。つまり、脳は情報過多の中では、脳自体がオーバーフローし、強いストレスを感じるようです。実は私たちの脳は地球上に生まれたときから変わっていないのです。私たちの進化は、実は外付けの進化です。羽をはやして空を飛ぶわけではなく、鰓ができて海に潜るわけではありません。飛行機に乗って空を飛び、潜水艦に乗って海に潜るのです。西アフリカの草原で、群れでやっとの思いで生き延びていた頃と脳は変わっていません。私たちの脳にとっては、終日消えない電灯や絶え間なくもたらされる情報は、しばしばストレスになることもありそうです。

ストレス症状が出た場合にできること

脳がオーバーフローしてしまうと、どのような症状が出てくるのでしょうか。具体的には、寝つきが悪い、夜中に目が覚める、朝早く目が覚める、どれだけ寝ても眠い、過食する、甘いものが欲しくなる、疲れやすい、といった体の症状や、イライラしたり、気分が落ち込んだり、楽しむことができないなど心の症状が起きてきます。何よりリモートワークの普及で、以前に増して、自分の状態を周囲に知られることが少なくなりました。人にとって、人との直接の触れ合いはこころの健康にとって欠くべからざるものですが、人と人との関係が希薄になった今、まずは自分で気づく以外ありません。このような症状が出たら、少し立ち止まって対策を考えましょう。

過剰な情報をシャットダウンする方法を考えてみましょう。通勤時間はゆったりと情報に触れず、休みにはリラックスして情報をシャットダウンしてはいかがでしょう。ストレス症状が出てしまった場合は、対策は、それぞれの人が慣れている方法が一番です。振り返ってみて、自分が一番リラックスした方法を思い出してみましょう。マッサージに行くとスッキリする人は行ってみましょう。身体を動かすのが良い人は、ヨガやジムも良いかもしれません。ゆっくり息を吐くとかタッピングもいいでしょう。アロマが好きな人はアロマを用いてみましょう。元々、人という動物は手の届く範囲に人がいる群れで暮らしていました。オンラインになった今でも雑談し、人の声を楽しんでみましょう。昔から私たちの脳が変わりないことを思い出して、電灯を消して、この地球に生まれた頃のリズムで暮らしてみるのも良いかもしれません。

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