2026

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境界知能とメンタルヘルス②

  • メンタルヘルス

西松 能子
博士(医学)、大阪医科大学医学部卒業後、公徳会佐藤病院精神科医長、日本医科大学附属千葉北総病院神経科部長、コーネル大学医学部ウェストチェスター部門客員教授を経て、立正大学心理学部名誉教授、現在あいクリニック神田にて臨床を行う。

よしこ先生のメンタルヘルス(84)

「働ける形で働く」社会への移行

2026年6月15日付け「境界知能とメンタルヘルス」で書いたように、境界知能の方は1,700万人程度いる(成人の7人に1人)と考えられています。言語化が苦手で、自分の困っていることをうまく説明できない、複数の手順を覚えて段取りよく仕事をすることが苦手、金銭管理、予定管理、書類の管理など、日常生活に必要な「諸般の管理」が難しい、こんな方々です。支援の主体は精神科医よりも教育や福祉といわれていますが、いずれの領域の支援も限定的で、相互の連携は水と油のように難しいと医者たちは感じてきました。医療、教育、福祉の連携となると、そのうち2つの領域(医療と教育)は「先生と言われるほどのアホは無し」という領域ですから、確かに難しそうです。

ところが、介護・福祉の領域に進出した病院、介護・福祉の領域に進出した教育機関が、経営的にも成功しているのを皆さんご存知でしょうか。Tという有名な病院グループは、病院数96に対し、傘下の介護施設数は全国で300を超えています。Bという有名な教育グループは、今や風前の灯火といわれる書店から出発し、教育分野で発展をしてきましたが、現在は都内に150以上の介護施設を持つ都内最大手の介護施設運営者となりました。

TグループやBグループが対象としているのは介護のボリュームゾーンといわれる高齢者が中心ではありますが、特にT病院のグループでは、疾病により本来の就労機能を減衰させた人たちや、いわゆる7人に1人といわれる境界知能の人々も支援の対象とする就業施設を運営しています。それらの施設は就労継続支援事業所と呼ばれて、A型とB型に分かれます。A型では最低賃金を保障され、サポートを受けながら障害者雇用として就労をします。大企業ですと、フルタイムで働く方は20万を超える手取りの方もたくさんいます。企業は税金の減免というキックバックを受けることになり、サポートを受け就労している方は、併行して障害年金を受給することが可能です。B型は、かつての作業所に似ていて、自分のペースで作業を行い、お小遣い程度の工賃になります。就労継続支援事業所の在り様は、働いている人、働けない人の区別でなく、働き方には支援を伴うグラデーションがあるという視点です。近代社会の0か100かの労働形態から、皆が「働ける形で働く」形に移行しつつあるともいえます。

実は、かつて産業革命以前には、自宅の近くの農地を耕し、それを子どもは子どもなりに手伝い、老人は老人なりに知恵を貸し、家業を持つ家はそれぞれの応分の力で労働を担っていた時代がありました。つまりさまざまな形で働く、その人なりの働き方の社会です。現代社会が多様な働き方に戻る糸口でしょうか。

働くことが求められない時代!?

今や、人がする仕事のうち、計算、文書の作成、検索、分析、設計など具体的な事務作業のほとんどをAIが担う時代が始まりつつあります。これまで専門職と考えられていた領域の業務を次々とAIが代替し始めています。私についていえば、海外に診療情報提供書を書くのはとても楽になりました。日本語で書き、AIに翻訳してもらい、ちょっと修正すればいいのです。海外の学会へのアクセスもとても楽になりました。これまで頭のいい人とされる人々がやっていた仕事を、AIが引き受け始めてくれるのです。現代社会は専門職がしていた仕事を次々とAIが引き受け始めているのです。私たちは、それぞれの能力のグラデーションに合わせて、AIに助けてもらいながら、それぞれのやり方で働くことができ始めています。AIとフィジカルAI(ロボット)によって、人類を満たす生産が少数の才能によって創られる時代はすぐそこです。

先日、山手線に乗り合わせてびっくりしたことがあります。その車両には短パンを履いていた数人の男性が乗り合わせていたのですが、どう見ても半分以上の方がつるつるのお肌—つまり脱毛をしていたんです。「ああ、そういえば美容外科の宣伝で、男性の永久脱毛の宣伝が増えたな」と思っていました。その時のキャッチコピーは「不快にさせない肌」だったのです。長く私は、医療は具合の悪い人を治療するものだと頭から信じてきました。いつの間にか、周囲の人たちを不快にさせないための技術に変わってしまいました。ふっと気が付くと、人に快を提供する美容外科が一大勢力になっていました。バッグに大量にマスコットなどの人の癒しになるグッズを付け、人の働いていない時間を充足する大量のアートやスポーツが満ち溢れる世界になっていました。もしかしたら、働くことが人に求められない時代がすぐそばに来ているのかもしれません。大部分の人が働く境界にいるのでしょうか。人に求められるのは、「人を不快にさせないこと」「人に快を提供すること」かもしれません。AIからみると、人類の大部分(AIを生産するごく少数の人以外)の仕事は「人を楽しませることかもしれません。まずは「自分をご機嫌にする」ところから始めましょうか。

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