2026
11/05
今年のインフルエンザはなぜ早い? ~流行時期の変化と変異ウイルスを考える~
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感染症
静岡県立農林環境専門職大学 生産環境経営学部 教授
日本医療・環境オゾン学会 事務局長
日本機能水学会 評議員
新微生物・感染症講座(28)
残暑というにはまだ早い8月末、インフルエンザ流行の目安となる患者報告数を上回り、厚生労働省から全国的な流行シーズン入りが発表されました。インフルエンザといえば、気温が下がり空気が乾燥する冬に流行する感染症というイメージがあります。しかし、今年は8月28日、昨年は10月初旬に流行入りが報告されており、従来よりかなり早い時期から患者が増加しています。「なぜ最近はこんなに早く流行するのだろう」と感じた方も多いのではないでしょうか。今回は、私たちにとって身近な感染症であるインフルエンザについて、その特徴や流行の仕組みを確認しながら、近年見られる流行時期の変化について考えてみたいと思います。
インフルエンザとは
インフルエンザは、インフルエンザウイルスによって引き起こされる呼吸器感染症です。発熱、悪寒、のどの痛み、咳などの症状は一般的な風邪と似ていますが、突然の高熱や強い倦怠感が現れやすく、肺炎などの重い合併症を引き起こすこともあります。
インフルエンザウイルスにはA型、B型、C型、D型の4種類があります。このうち、世界規模で流行を繰り返すのは主にA型です。A型はヒトだけでなく鳥類や豚など多くの動物にも感染するため、多様な遺伝子変異が生じやすい特徴があります。
一方、B型はヒトのみで流行し、パンデミックを起こすことはなく、2つの系統の一つである山形系統は2020年3月以降世界的に検出されていません。C型は感染しても軽症であることが多く、D型は現在のところヒトへの感染が確認されていません。私たちが毎年注意している季節性インフルエンザはA型であると考えてよいでしょう。
A型インフルエンザウイルスの特徴
A型インフルエンザウイルスは、ウイルス表面に存在する2種類のタンパク質によって分類されます。一つは細胞への侵入に関わるヘマグルチニン(H)、もう一つは増殖したウイルスが細胞外へ放出される際に働くノイラミニダーゼ(N)です。
これまでにHは18種類、Nは11種類が確認されており、多数の組み合わせが存在します。しかし、人で継続的な流行を起こしてきたのはH1N1、H2N2、H3N2の3種類です。
また、高病原性鳥インフルエンザとして知られるH5N1やH7N9などもありますが、これらは主として感染動物との濃厚接触によって感染するもので、人から人へ効率よく広がる季節性インフルエンザとは区別して考える必要があります。
ウイルスが変異すると流行開始時期が早くなる?
新型コロナウイルス感染症が出現する前、日本のインフルエンザ流行は11~12月頃に増え始め、1~3月にピークを迎えるのが一般的でした。しかし、2023年以降は8月から患者報告が増加し、流行開始時期が前倒しになる傾向がみられています(注1)。こうした状況から、「ウイルスが変異したから夏に流行するようになったのではないか」と考える方もいるかもしれません。しかし、現在の科学的知見ではそのような単純な説明はできません。
2025年には、H3N2系統の新たな変異株である「サブクレードK(J.2.4.1)」がオーストラリアやニュージーランドで流行し(注2)、その後、欧米や日本でも検出されるようになりました。サブクレードKは従来株とは異なる変異を持ち、既存の免疫をある程度回避しやすい可能性が指摘されていますが、これについては疑義もあり、今後の研究報告が待たれます。
一方で、サブクレードKが優勢となったアメリカでは流行時期そのものは大きく変化していません。つまり、「変異株が出現したから夏に流行する」ということではないのです。
早期流行は複数の要因の結果なのか!?
現在、考えられているのは、複数の要因が重なった結果として早期流行が起きているという考え方です。
第1に、インフルエンザは世界規模で循環する感染症であり、人の移動によって国境を越えて広がります。南半球では7~8月が冬にあたり、今年はその時期にサブクレードKが流行していました。そのウイルスが北半球へ持ち込まれ、早い段階で流行が始まった可能性があります。
第2に、8月や9月はワクチン接種が本格化する前の時期です。社会全体で十分な免疫が形成されておらず、ウイルスにとって感染を拡大しやすい環境が整っていたと考えられます。
第3に、小児を中心とした感受性の高い集団の存在です。英国ではサブクレードKによる感染が小児で多く報告されました。子どもは過去の感染経験が少なく、変異株に対する免疫が十分でないため、流行の拡大に影響した可能性があります。
さらに、サブクレードKは感染拡大のスピードが速いことが報告されています。ただし、ウイルス自体の感染力が高まったのか、それとも既存免疫を回避しやすくなった結果なのかは現時点ではまだ明確ではありません。今後の研究成果が待たれるところです。
正しい知識を持ち基本的な感染対策を!
インフルエンザ対策の基本は、流行前のワクチン接種、手洗い、十分な換気、咳エチケット、人混みを避けることなどが有効です。また、高熱や強い倦怠感などの症状が現れた場合は早めに医療機関を受診しましょう。発症後48時間以内であれば抗インフルエンザ薬による治療効果が期待できます。
ウイルスは常に少しずつ変化していますが、現時点でサブクレードKによって重症化しやすくなったという証拠はありません。必要以上に恐れるのではなく、正しい知識を持ち、基本的な感染対策を継続することが大切です。インフルエンザは「冬の病気」というイメージがありますが、これからは「秋から注意すべき感染症」として備える必要があるのかもしれません。
(注1)DWR過去10年との比較グラフ(週報) -インフルエンザ Influenza-:https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/idwr/graph/weekly/Influenza/index.html
(注2)Clyde Dapat, et al., Extended influenza seasons in Australia and New Zealand in 2025 due to the emergence of influenza A(H3N2) subclade K viruses., Euro Surveill. 2025 Dec 11;30(49):2500894.