2021

05/04

地方病院でのCOVID-19クラスターの爪痕

  • 地域医療

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横山 和之
社会福祉法人北海道社会事業協会小樽病院 外科部長

ドクターズプラザ2021年5月号掲載

地域医療・北海道(41)

はじめに

僕の勤務する北海道社会事業協会小樽病院では、2021年1月20日より、COVID‐19クラスターが発生し、2021年3月9日の終息宣言までに、入院患者33名、職員34名、計67名に及ぶクラスターとなりました。収束宣言はしましたが、クラスターの分析や、今後の再クラスター防止の方策など、解決しなければならない問題は多くあります。感染対策としての、いろいろな方策や分析に関しては、当院の感染対策委員会からの今後の報告を待つとして、今回は、アフターコロナとして、地方病院にどんな爪痕が残っているのかを報告します。

クラスター発生によって明らかになった問題

⒈患者への影響

通院患者さんは不要不急の検査をせずに、主に投薬のみとなりました。そのため通常の定期検査が先送りになっていて、病状の悪化の診断が遅くなる可能性があります。また、現在(本稿執筆時)も病床の一部しか使用可能ではないため(COVID‐19感染症のベッドとして病棟1つを空けている)、収束宣言後もまだ入院を制限中で、病状悪化時には当院に入院することができずに、患者さんとしては通院・入院したことのない慣れない他院に入院加療を依頼することになります。収束後の入院制限が継続しているため、新規の外来患者や緊急入院は原則受けていません。

⒉地域医療への影響

今まで紹介をいただいていた開業医さんからの紹介患者を受けられない状況が続いています。入院制限をしているため、いまだに小樽市の輪番の一次救急・二次救急は受けていません。そのため、他院の輪番病院に負担が掛かっています。

⒊職員への肉体的な影響

部署によっては(特に看護職員)、連続勤務が続いたり、夜勤が続いたり、希望通りの休みが取れない状態があります。また、感染対策のために、感染防護装着時の肉体的な負担増と勤務中に緊張が持続していることで、疲労が取れずに疲弊しています。クラスター中には、家族に感染させたくないとの希望からホテル住まいの場合もあり、それも肉体的な疲労を蓄積させていました。

⒋職員への精神的な影響

感染対策を行うことによる緊張の持続、家に帰れないことや息抜きができないことによる精神的な疲労の蓄積、COVID‐19感染職員や濃厚接触職員の罪悪感、隔離時の閉塞感、勤務に戻ることのストレスなどがあります。

⒌職員間の分断

COVID‐19感染者が出ている病棟、感染者が出ていない病棟における分断。例えば、「あんたのところは感染者が出ていなくていいわよねー」、「また、あんたのとこで感染者が出たの?」など。また、感染もしくは濃厚接触者となった職員と、その職員の穴埋めをした職員の分断も考えられます。

⒍顕著なマンパワー不足

もともと、地方病院は慢性的にマンパワー不足であり、特に、看護職員のマンパワー不足は顕著です。当院でも、常にギリギリの人材で勤務をこなしていた現状があります。このマンパワーの余力がない状況でクラスターが発生したため、著しいマンパワー不足が生じ、そこを休日返上の連続勤務でどうにかするということが起きました。その影響は、まだ続いています。また、離職も多いため、特に3月はマンパワーの不足になることが多く、収束と年度末が重なり、顕著なマンパワー不足に陥っています。

⒎職員の収入減少と離職の危機

隔離処置となった職員は、夜勤手当があるわけではなく一律収入減です。また、今後は 病院の収入減に伴うボーナス減は必至だと考えられます。苦労して、疲弊して、給料下がって、その先にあるものは当院からの看護職員大量離職だと思います。

⒏病院の経営収支の悪化

クラスター発生中はもちろん、収束宣言後も続く入院患者減、外来患者減のために、収支の悪化は避けられません。健全な経営が揺らぐと、健全な医療も揺らいでくるのが病院です。健全な医療ができなくなると、さらに患者さんは減っていきます。

以上のように、当院のような地方病院ではCOVID‐19クラスターが発生したことにより、収束宣言後も爪痕がしっかりと残り、そこを元に戻していくのはかなり難しく時間がかかると思います。今後の病院の方向性も含めて病院全体として考えなければならない状態ではないかと考えます。もともと、ギリギリで持ちこたえていたいろいろな地方病院の歪みが、COVID‐19クラスターの発生で露わになったと思います。どのように、この問題を解決するかは、まだ答えが出ていません。しかし、その答えを見つけなければ地方病院の存続はないのではないでしょうか。

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