2023

04/10

医師の制度改革は誰のため?

  • 地域医療

  • 北海道

横山 和之
北海道社会事業協会 岩内病院 院長

地域医療・北海道(48)

制度改革によって起きた地域医療の変化

僕が医師になってから研修制度の変化、医局の崩壊や弱体化、そして今回の働き方改革など、医師の制度の変化・改革がありました。

しかし、その弊害が医療現場に及んでいます。特にその影響を一番受けているのは紛れもなく、地方の地域医療の現場です。その現場の状況を見ていると制度改革の本当の目的は、地域医療を衰退させるために行っているのではないか? と思うほど地域医療は衰退しています。

まず、「初期臨床研修制度」ですが、僕が医師になった年から大学では内科領域の「スーパーローテート」(1985年から実施)といわれる、内科の研修がスタートしました。これは、内科系を志望する医師は決められたカリキュラムで全ての内科系の科を2年間研修するというものです。簡単にいうと、内科に限定された初期研修というものです。当時は、消化器内科医になりたければ消化器内科の医局、呼吸器科医になりたければ呼吸器科の医局に1年目から入局し、専門領域の医師として研修を受け専門医になっていくのが通例でした。それが、2年間の「スーパーローテート」を義務化したことで、将来は、消化器内科医、呼吸器内科医、循環器内科医などになりたいという医師像を描いている学生の中には、2年間の遠回りになると感じた学生も多くいました。その結果、多くの学生は「スーパーローテート」のある大学ではなく、市中の大きな総合病院の専門分化された内科(○○総合病院の〇〇内科)に就職するか、もしくは内科医になるのを諦めざるを得ませんでした。

例えば、僕の卒業した北海道大学では札幌市内の病院に直接就職する学生が多くいたり、前年まで入局者の少なかったマイナーといわれる科(耳鼻科、眼科、皮膚科など)への入局者が多くなったりしました。その結果、封建的や権威的といわれる大学の内科医局は弱体化し、都会の総合病院の内科とのパワーバランスが変わりました。

大学の内科医局は少なくなった医局員を確保するために、地域医療を担っていた病院から内科医の総引き上げを行いました。大手の民間派遣会社は、その地域から内科医の大量引き上げを知っていたかのように、“民間医局”といわれる医師医療職に特化した派遣会社を矢継ぎ早に設立したり、規模を大きくしたりしています。また、都会の総合病院とのパワーバランスの変化と入局した医師へのアピールで、医局員を地方の地域医療ではなく、都会の専門性の高い総合病院内科部署へ多く派遣するようになりました。内科スーパーローテートは大きな実験だったのかもしれません。この実験的な試みは、大学医局の弱体化、都会への医師集約、地域医療の崩壊、民間医局の台頭を引き起こしました。

医局の弱体化による“民間医局”の増大

次に、全医師に対しての初期臨床研修制度(新医師臨床研修制度、2004年から実施)がスタートしました。この制度の目的は、悪くないと思いますが、ただ、内科のスーパーローテートで起きた問題をほぼそのままにして初期研修制度が施行されたため、大学医局、特にメジャーといわれる外科・内科の医局は弱体化し、総合的に地域医療を支えていた外科医・内科医は都会に集約され、地域医療はさらに壊滅的に崩壊しました。崩壊した地域医療の足元を見て高額な医師を押し付ける“民間医局”の増大を招いています。この状態が放置されているのは、もしかしたら、行政の本当の主目的は“民間医局”の増大だったのかもしれないと思ってしまうほどです。

地域医療の消滅危機!?

そして、現在、「医師の働き方改革」(2024年4月実施)が徐々に進行しています。他の地域の地方病院でも同様だと思いますが、 当院でも、少ない常勤医で通常の診療を行っています。「働き方改革」をしっかり行うと、少ない医師で日中の診療と夜間休日の当直業務、特に当院のように2次救急を365日24時間行っている地方の病院では、日中の診療を少なくするか、2次救急を返上するかになってしまいます。また、これまで当然のように行われていた常勤医が当直後、そのまま連続勤務することは不可能となります。これは、大学から派遣されてくる医師にも適応されるため、地域の病院を支えてくれている大学病院の医師が今までのように当直業務や日中の診療に来られなくなってしまうと予想されます。

そうなると地域医療を支える医師の勤務時間は確実に減りますが、医師数はそのままの状態となります。さらに、地域の医師不足を支えている大学からの派遣医師の引き上げ、または削減が考えられる今、このまま何もしなければ、近い将来、瀕死の重症だった地域医療(集落で例えるなら限界集落)は消滅していくのかもしれません。

ただ、地域を支えている全ての医療職は、必死に今も地域医療をどうにかしようとしているだろうし、僕も何かできないかと、毎日模索しています。

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