2020

01/18

再び、災害の話。列島亜熱帯化、そして建築は?

  • 病院建築

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服部 敬人
株式会社伊藤喜三郎建築研究所
執行役員 設計本部第二設計部長 一級建築士 認定登録医業経営コンサルタント

ドクターズプラザ2020年1月号掲載

病院建築(6)

前前々回は「病院こそ、災害意識の向上を!」、前々回は、「災害意識個々人の身の回りから!」と題して、2回連続して災害のお話を致しました。そこでは、「立地計画の精査により減災は期待できること」、「浸水や土砂崩れのリスク、つまり立地に問題が多いこと」を書きました。直後、令和元年秋には痛ましい水害が複数回発生し、そのたびに「想定外……」、「百年に……、千年に……一度」の水害との報道がありました。本当に想定を超えた災害なのでしょうか。今回は再び、災害の話です。

ここ数年の異常気候、建物の悲鳴

東京近郊で育った筆者の子供のころ、今から50数年前、冬には水たまりに氷が張り、水道管も凍りました。そのころから比べると、ずいぶん日本列島は温暖化が進んでいます。百年、五十年単位での気温の上昇は誰もが認識できるのですが、ここ数年、特に気象統計上で変化が見られるのが、夏季の平均湿度です。関東圏は直近5年ほどで5〜10%程度の上昇が見られます。直近の統計ですので、一時的な傾向であることも考えられます。平均気温はそれほど変わりがないのに、湿度だけが上昇傾向にあります。気象の専門家ではありませんので詳しいメカニズムは分かりませんが、確かにデータに表れています。何よりも、建物が悲鳴を上げているのです。以前では見られなかった結露現象、空調機器の効率低下・不具合の発生が明らかに増えています。医療福祉系の施設では、デリケートな問題です。

異常気象でも、想定外でもない?

気候区分には諸説ありますが、日本列島は北海道の亜寒帯、そして沖縄を含む南西諸島の亜熱帯を除き、ほぼ温帯湿潤気候に属しています。その温帯湿潤気候が亜熱帯化しているのではないか。そして、その亜熱帯化に世の中の建物やインフラが追い付いていないのではないだろうかと感じています。病院建築も亜熱帯化に対応しなければならないでしょう。水害の他、私が以前から指摘している熱害(夏季高温高湿時の人身や建物への被害)を含めて、気象災害は今後発生の度合いを増していくことでしょう。

水害に備えて、何ができる

昨季の水害の後、複数の病院や福祉施設から、「対応策として何ができるのか」という問い合わせがありました。もちろん、現に存在する病院では、それぞれの病院のつくり方によりさまざまな対応策が考えられます。行政の作成したハザードマップにより水害の可能性がどのレベルかを確認して、詳しい内容を行政に確認することもよいでしょう。水害は想定レベルによって対応策が異なります。特に地下に電気室がある場合は、しっかりした状況把握と対応が必要です。止水板(防水板)の常備や排水ポンプの設置、ドライエリアや階段の立ち上がりのかさ上げ等が考えられます。想定浸水レベルが大きい場合は、電気室の上階への移設も含めて検討すべきでしょう。新築の場合は立地状況を細かく確認することになります。想定浸水レベルが大きい場合では、1階の床レベルを嵩上げすることや、1階をピロティとして2階から諸室を設けることも検討すべきでしょう。電気室は地下に設けず、上階に設けることがセオリーです。なお、「浸水対策ガイドライン」を配布している自治体もありますので参考にしてください。

立地の重要性を問う

水害に限らず、いろいろな立地条件をチェックするために、前々回紹介した「運営管理編」に引き続き、「立地編」の確認シートを紹介します。

 

それぞれ、①軟弱地盤、②津波警戒地域、③活火山、④洪水危険地域、⑤土砂災害危険地域、⑥竜巻多発地域、⑦豪雪地域、⑧木造家屋密集地域、⑨原子力発電所、⑩地歴調査済、を確認しています。①は地震では軟らかい地盤の揺れが大きくなる傾向を、⑧は周辺地域で火災が発生した場合のリスクを、⑩は土地の過去を知ることの重要性を示しています。土壌汚染の有無を確認することも必要です。敷地の形状や大きさが同一でも、地域特性や立地条件により災害対策を含めた病院建築のつくり方はさまざまです。

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