2018

05/09

信念を持って目指してほしい

  • 職場訪問

  • 神奈川県

10カ月もの間、胎内で育ててきた赤ちゃんを出産するのは、素晴らしく、しかしとても大変なこと。スムーズで自然なお産をするには、お母さんがいかにリラックスできるかが重要なのだそうだ。痛みや不安の中で頑張るお母さんを支え、赤ちゃんを取り上げる助産師は、女性にしかなれない珍しい職種である。昨年開院した戸塚共立レディースクリニックの助産師の名取伸子氏に、助産師の仕事や、そのやりがいなどについて伺った。

ドクターズプラザ2018年5月号掲載

職場訪問(1)戸塚共立レディースクリニック

助産師は、出産の神秘を目の当たりにできるやりがいのある仕事!?

 

女性しかなれない助産師の仕事

―まず助産師とはどのような仕事なのか教えてください。

名取 「保健師助産師看護師法」に、「『助産師』とは、厚生労働大臣の免許を受けて、助産又は妊婦、じょく婦もしくは新生児の保健指導を行うことを業とする女子」と定められています。昔は「産婆さん」と呼ばれていましたが、法律の制定や教育制度の整備等に伴って、「助産婦」に、また「助産師」に改称されています。具体的な仕事の内容としては、赤ちゃんを取り上げるだけではなく、妊婦さんの健康や生活の指導から、出産後の体調管理といった周産期全般、育児、また女性の各ライフステージをケアしていく仕事です。例えば私の場合は、日勤は8時半〜17時までの勤務で、朝礼の後、9時から病棟のラウンド、その後は随時、出産のフォローや診察の介助、医師への報告や連絡等を行っています。夜勤は16時半〜翌朝9時までで、交代で担当します。

―助産師になるには、どのようなステップがあるのですか。

名取 助産師になるには、助産師国家試験に合格し、厚生労働大臣の免許を受ける必要があります。助産師国家試験を受験するには、まず看護師の資格が必要なので、看護学校等を卒業して看護師国家試験に合格していなければなりません。さらに、文部科学大臣の指定した学校、あるいは厚生労働大臣の指定した助産師養成所を卒業すれば、助産師国家試験を受験することができます。

―男性は助産師になれないそうですが、男性より女性の方が良いと思いますか。

名取 分娩の際に緊張するとお産が進まなくなってしまうので、妊婦さんがリラックスできる環境をつくることはとても重要です。助産師が男性だと緊張してしまいますし、また産後に母乳の状態をケアすることも助産師の仕事で、必要な時にはおっぱいのマッサージもしますから、助産師という仕事に限っては女性であることに意味があると思います。

―一方で、昨今は男性が出産に立ち会うのは一般的になってきていますね。

名取 かつては、実家に帰ってお産をすることが多かったですし、昔はむしろ男性は邪魔にされていましたが、今は立ち会われることが多いですね。その背景には、核家族化が進んだり、両親が高齢であったり、あるいは親も仕事があって手伝うことができないなど、家族や時代の変化があるのではないかと推測しています。結果的に産後に頼るのはパパになりますから、お産から立ち会っていただき、赤ちゃんの父親になったことを早い段階で自覚してもらうことは大切です。パパが来てくれると妊婦さんも安心感があるようですね。ママだけの子どもじゃなくて、パパの子どもでもあるので、頑張っているところを励ましてもらいたいという気持ちもあると思います。お産の時には、腰をさすってもらったり、飲み物を口に運んでもらったりしています。赤ちゃんが生まれて、「頑張ったね」とねぎらっている姿を見ると、良かったなと思いますね。私自身が出産したときにも、夫は立ち会いました。後になって聞いてみると、私より夫の方が、赤ちゃんが生まれた時の様子をよく覚えています。

自らの妊娠をきっかけに助産師へ

―名取さんは助産師になって6年だそうですが、なぜ助産師という仕事を選んだのですか。

名取 私はもともと看護師で、小児外科とICU、CCUで仕事をしていました。看護師になったのは、私の姉が生まれつき体が弱く、入院することが多かったり、交通事故で手術を受けたりしていたので、病院で働く看護師さんを見ていたからだろうと思います。私自身は幸いとても健康体で、大きな病気も入院も経験がなく、患者さんの立場になったことはありませんでした。助産師については、看護師になるための産科病棟での実習の印象が強く、知識も技術も、プロ意識も高く、学生に厳しい人という漠然としたイメージを持っていました。

でも私自身が妊娠して、妊婦健診を受診するようになった時、この経験が仕事に活かせないかなと思うようになりました。私の出産のときにケアしてくれた助産師さんが、ずっとそばにいて腰をさすってくれて、助産師に対するイメージも一変しました。母子保健に関わるには、助産師のほかに保健師という仕事もありますが、私は助産師になりたいと思い、出産後に助産師学校に行きました。最初は埼玉県の産院で仕事をしましたが、同じ病院グループがこの戸塚共立レディースクリニックを開院することになり、準備段階から関わっています。

―子育てとの両立は大変なのでは。

名取 助産師に限ったことではないと思いますが、何かあれば呼び出されるので、子育てと両立するにはサポートしてくれる人がいないと難しいですね。私も含めて、子育てをしている常勤のスタッフは、みんな必死で頑張っています。

仕事上でストレスになることもありますが、私の場合は、家に帰ると二人の子どもがいるので、一気にスイッチが切り替わります。職場の同僚もよく話を聞いてくれるので、互いの状況が理解できる同じフィールドに人たちに聞いてもらえるだけでもスッキリします。一人で頑張っていると考えると引きずってしまうかもしれませんが、仲間がいて、家にも支えてくれる家族がいる。一人ではないということは、とても大事なのではないかと思います。

―どのようなときにやりがいを感じますか。

名取 お母さんがお産に対して前向きであったり、赤ちゃんをすごく大事に思っていたり、育児にも前向きに取り組めている様子を見ると、特にやりがいを感じます。逆に、残念なことに赤ちゃんが仮死状態で生まれたりすることもありますから、そういうときはつらいですね。小児外科の看護師をしていたときも感じていましたが、覚悟をもってやらなければいけない仕事だと思っています。

お産が好き。今の仕事を続けたい

―戸塚共立レディースクリニックは2017年4月に開院しましたが、どのような職場ですか。

名取 現在、助産師は常勤が8名、非常勤が18名、看護師は常勤が1名、非常勤が7名、看護補助の常勤が1名です。非常勤の助産師は、月1回の夜勤を担当してくれる人、週4回日勤で来てくれる人などさまざまです。職場環境は、その病院やクリニックが求められている役割によって異なります。例えば大学病院は、妊娠・出産・生まれてくる赤ちゃんにリスクのある方のための施設ですから、緊急度が高い処置や手術もあります。また、年間のお産が1500件、2000件という病院ならば、昼夜を問わずお産があるので、スタッフが少ない夜勤は特に忙しいでしょう。また同じ助産師でも、どこで働くかによって働き方はそれぞれです。

当院の場合は、現段階ではまだ分娩件数はそれほど多くなく、19床のうち常に5床〜10床が利用されている状態です。そのため、1件のお産にゆったり関われるのがとてもいいと思っています。また当院の院長先生は助産師の意見を尊重してくださるので、私たちから状況を説明し、提案することもよくあります。妊婦さんから「こういうお産がしたい」という希望があれば、極力かなえられるように考えるクリニックですし、一人の助産師が長く関われるのでリラックスしていただけるいい環境が整っていると思います。人がたくさん出入りすると、お産の過程で緊張してしまい、お産の妨げになることもありますが、なるべく同じスタッフが見守り、お産が進んでいくことで相談しながらあうんの呼吸を作っていくことができます。

戸塚共立レディースクリニック外観

 

―これまでの仕事の中で特に記憶に残っていることはありますか。

名取 一つは、学生の時に、初めてお産を担当させていただいた方のことです。その赤ちゃんが1人目のお子さんだったのですが、私が就職後、2人目の赤ちゃんを出産されるときも、たまたま私が担当することになりました。全くの偶然なのですが、今でも、2人の赤ちゃんのお名前や、体重も覚えています。もう一つは、このクリニックの準備、開院を経て、久しぶりにお産を
担当した時のことです。初めてのお子さんで、お母さんは痛みでパニックになりながらも、コミュニケーションがうまく取れて、呼吸もスムーズで上手でした。お母さんが上手に呼吸できると、赤ちゃんも元気な状態でいられるので、自然に生まれるのを待つことができるのです。まだ破水していなかったので、赤ちゃんは膜に包まれた羊水の中にいる状態で産道から見えてきた時に、羊水の中の赤ちゃんの髪の毛が、フワッフワッと漂っていてとても神秘的でした。お産の神秘を目の当たりにして、とても感動しました。こういう経験は、助産師でなければできないですね。お産が好きなうちは、分娩を継続して担当しながら、今の仕事を続けたいと思っています。

―最後に、助産師を目指したい方に、アドバイスをお願いいたします。

名取 助産師は、とてもやりがいのある仕事です。お産が好きで、母子保健が好きで、仕事が好きな方におすすめしたいですね。また新生児の蘇生法一つでも5年に1回は改定されるなど、どんどん進化していきますから、勉強熱心な方が向いていると思います。助産師は、信念を持ってなりたいと思う方でないと厳しいかもしれません。私の経験から申し上げると、助産師学校での実習は、看護学生の実習よりかなり厳しいですし、実際実習を指導していると、残念ながらそこで挫折してしまう人もいます。そして、やはり真摯に患者さんと向き合えることが重要だと思います。

 

戸塚共立レディースクリニック発行の季刊誌「こうのとり冬号」。流行の病気の話やスタッフ考案のレシピ等を掲載。

 

同僚(助産師)の五反田美和さん(右)

 

 

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