2022

05/23

保健室ってどんな場所?(1)「養護教諭って何をする人?」

  • 保健

内山 有子
東洋大学ライフデザイン学部健康スポーツ学科

1.保健室と養護教諭

皆さんは自分が通っていた学校の保健室の場所を覚えていますか?

すぐに思い出せなかった人は大きなケガや病気をすることなく、健康的な学校生活を送ってきた人、すぐに思い出せた人はいろいろな理由があったとは思いますが……、保健室の常連だったかもしれない方ですね。日本の学校は「その学校の目的を実現するために必要な校地、校舎、校具、運動場、図書館または図書室、保健室その他の設備を設けなければならない(学校教育基本法施行規則第1条)」というルールがあり、全ての学校に保健室があり、原則的に養護教諭が勤務しています。

保健室には授業や部活動でケガをしたり、進路や友人関係などの悩みを抱えていたり、理由はないけどなんとく……、などの理由でたくさんの子どもが訪れます。養護教諭は応急手当をしたり、悩みごとの相談に乗ったり、健康診断や環境衛生管理、保健指導などをしながら、学校における子どもの心と体の健康に寄り添う日々を送っています。

2.子どもの健康問題と養護教諭

第2次世界大戦前の日本人の大きな健康問題は結核や赤痢などの感染症でした。中でも子どもが通う学校ではトラコーマという目の感染症が大流行したことにより、1905年に岐阜県の小学校に学校看護婦が配置されました。学校看護婦は後に養護訓導と名前を変え、1947年に養護教諭に名称変更されますが、このような養護教諭の歴史は学校における子どもの健康問題の歴史と合致しています。

トラコーマに始まった学校感染症は、麻疹、風疹、百日咳、インフルエンザなどと続き、2020年には新型コロナウイルス感染症が発生しました。学校は大勢の子どもたちが集団で長時間、一緒に過ごす場所です。机を寄せ合ってグループワークをしたり、給食を一緒に食べたり、修学旅行で寝泊まりしたりなど、距離が密接している活動がたくさんあるため、感染症への対策は慎重に行う必要があります。養護教諭は学校において感染症の蔓延防止の要として対応を行っています。

また、1950年代には感染率が30%近くあった回虫などの寄生虫病や戦中戦後の食糧不足による栄養失調などの子どもの健康問題は、近年では肥満、虫歯、視力低下、いじめ、虐待などの新しい健康問題に変化しています。これらの問題は社会環境や家族関係の変化などの影響を受けて複雑化し、子どもの心と体に大きな影響を与えています。子どもの病気や健康問題は社会の縮図となって表れてくるのです。

このような健康問題を解決し健康を保持増進するために、いつも子どもたちの近くにいてその変化に気付くことができる養護教諭への期待が高まり、養護教諭の職務内容は拡大化する傾向にあります。

3.養護教諭のスキルとは

子どもたちが自分の健康について考え、生涯における健康管理の技術などを学ぶために、日本の学校では「保健教育」や「保健指導」を実施しています。これらの教育は主に学級担任や保健体育科教員が担当していますが、時には養護教諭も一緒に授業を担当したり、単独で授業を任されたりすることもあります。養護教諭は学校における健康管理や保健指導の専門家として認識されているので、さまざまな健康問題に対処できる高い能力が必要であり、その力を付けるためには自身の対応や判断を振り返ることが不可欠です。

しかし、養護教諭は各学校にほぼ1人しか配置されない職種で、かつたくさんの職務や役割を担っているので多忙です。また、1人職種故に学校で同じ立場として相談できる人がいなかったり、先輩の行動を見て学んだり、直接指導を受けたりする機会を持ちにくいという特徴があります。つまり、養護教諭が自ら進んで自分の日々の保健室対応や保健実践を振り返ったり、自ら求めて学んだりしない限り、能力の向上は困難であり、「子どもの命を守り、健康を保持増進する教育」とはかけ離れた自分流のやり方を何年も続けてしまうこともあるのです。こうした養護教諭の特徴を踏まえ、自分の実践を的確に評価し、成長につなげる方策として本研究会で開発したのが「スキルラダー」です。

スキルラダーとは、本研究会の中村富美子が開発した養護教諭のスキル(知識・技術)を、11個の職務別・段階別(ラダー:はしご)に示したものです(表1)。

表1 スキルラダー

スキルラダーで目指す養護教諭像は、必要な知識・技術を持ち、「子どものために行動できる養護教諭」です。この連載ではこのスキルラダーを参考にしながら養護教諭という職業の魅力を皆さんに紹介するとともに、近年の学校現場で子どもたちにどのような健康問題が起きているのか、学校での健康管理の実情や養護教諭の取り組みなどを紹介していきたいと考えています。

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スキルラダー研究会の概要

ウェブサイト https://skill-ladder.com/

・団体名:SLIPER(すりっぱ)

Skill Ladder for Improvement and Evaluation Running of School Health Nursing

・理念:養護教諭の能力育成を追及すると同時に、子どもやその家族、さらにその地域で暮らす人々の健康に貢献すること

・メンバー:

中村  富美子(代表) [静岡県沼津市立大岡中学校]

荒木田  美香子 [川崎市立看護大学]

内山  有子   [東洋大学]

加藤  恵美 [静岡市清水船越小学校]

齋藤  朱美 [東京都立深川高等学校]

高橋  佐和子 [神奈川県立保健福祉大学]

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