2019

02/10

介護保険の「3つの格差」

  • 介護

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高室 成幸
ケアタウン総合研究所・代表

ドクターズプラザ2019年1月号掲載

介護の潮流(最終回)

2018年の4月、第7期の介護保険の改定がありましたが、介護保険の「格差」が如実になっていることは案外知られていません。その代表格が「保険料の額、介護サービスの質、自己負担割合」です。この格差を知ると、これからの介護保険を読み解くヒントになるでしょう。

なぜ「保険料」に格差があるの?

介護保険制度は厚生労働省が何ごとも決めるナショナルスタンダード。しかし市町村によって介護保険料に格差があるのはなぜでしょう。もう20年前のことですが介護保険と同時にスタートしたのが地方分権一括法でした。介護保険は「自治の学校」といわれたのも、市町村が介護保険事業計画を通じて「高齢社会のまちづくり」をグランドデザインすることを求められたからです。それは市町村格差が激しいから。高齢化率という高齢者人口格差、経済格差、産業格差など。だから同じ保険料で全国を回すのには無理がある。極端な不公平さが生まれます。

発足当初は全国一律2,800円前後でしたが、この第7期では全国平均5,869円(月額)。最も高額なのが福島県葛尾村で9,800円。最も低額なのは北海道音威子府村で3,000円です。都道府県平均月額は沖縄県(6,854円)が最も高く、最低は埼玉県(5,058円)。その原因はまずは高齢化率。そして要介護認定率。認定率が高くても軽度(要支援1〜要介護2)でとどまっているならいいですが、数年後に要介護3〜5になってしまうとたまりません。つまり中重度でないと入れない特養や基準額を満額利用する住宅型有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅などが多いと市町村の介護保険財源を直撃します。そして人口減少の市町村は40歳〜65歳(第2被保険者)層が少ないのでさらにキツクなります。

「介護サービス」に格差があるの?

介護を受ける利用者の側から発想すると介護サービスの格差は切実です。介護報酬は一律なのに、提供されているサービス内容は大枠は同じでも、細部にわたるとかなり違うことはあまり知られていません。

まずは人材育成に力を入れているか、これが一つ。そしてもてなし感や丁寧さ、楽しさになるとかなり差はあるでしょう(もちろん相性があるので一概には言えませんが)。そして軽度中心、認知症中心、中重度中心など、利用者の受け入れに「制限を設けている」ところもあります(表立っては言わないですが)。あとサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)や住宅型有料老人ホームに入居すると、併設のデイサービスや訪問介護を強制されることも。

今回の7期改定で特別加算枠がたくさん生まれました。デイサービスのリハビリ強化のために機能訓練加算が設定されましたが、行うのが看護師と理学療法士と作業療法士ではおのずと結果は異なります。さらに中山間地では、送迎エリアに入っていないと利用すら難しい。ショッピングのように気軽に比較できずケアマネジャー任せになりやすい。

「自己負担割合」に格差があるの?

介護保険は発足当初から「自己負担1割」が基本でした。しかし介護保険財源のひっ迫と応分負担の原則などから、世帯年収:1人世帯280万円以上、2人以上世帯346万円以上の人が2割となりました(平成27年度)。そしてこの8月から3割負担(世帯収入:1人世帯340万円以上、2人以上世帯463万円以上)がスタートしたのです。つまり同じ介護サービスの金額が3倍に跳ね上がったのですから、たまりません。高額介護サービス費制度(月44,400円)を使えば3割払っても超過分は戻ってきますが、それでも……。

そして、1割の自己負担額も払えないのでサービスを減らすケースも。自己負担額を半分にしたらサービスの利用もおのずと5割減となります。結果、さらに要介護度は低下することに……。介護保険制度の行き過ぎたマイナーチェンジが制度の理念そのものを歪める事態が始まっています。

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