2019

01/27

中小病院における院内認知症ケアパスの構築に向けて

  • 地域医療

  • 北海道

横山 和之
『地域医療・北海道』連載
社会福祉法人 北海道社会事業協会小樽病院・外科

ドクターズプラザ2019年1月号掲載

地域医療・北海道(34)

認知症はcommon disease

日本の総人口に対する65歳以上の人口割合(%、以下高齢化率)は2015年で26.6%であるが、当院の所在地である小樽市の高齢化率は2015年で37.2%であり、小樽市という街は全国に先駆けて高齢化が進んでいる地域となっています。また、高齢者の認知症の有病者数の将来推計では2012年が462万人、2015年が517万人、2020年は602万人と増加の一途を辿っていて、2020年には高齢者の約6人に1人が認知症であると予想されています。この推計をこの小樽市に単純に当てはめると、2020年には住民の15人に1人が認知症であると予想されます。この構図は9人の若年者と5人の認知症ではない高齢者が1人の認知症高齢者を支えることを意味しています。さらに、病院に通院したり、入院したりする患者における高齢者の割合は、もともと人口に対する高齢化率よりさらに高く、そのことから、実のところ今現在、認知症はどんな疾患よりも、病院においてはcommondisease(一般的な病気)であり、今後はさらに commonなdiseaseになると考えられます。

しかし実際は、高血圧や糖尿病、肺炎などのcommon diseaseとして認識されている疾患と比べて、認知症はcommon diseaseとまでは認識されていません。そのように認識不足なのは患者やその家族だけではなく医療従事者も当てはまります。そのことから、入院してきた時点では、認知症の診断も治療もされていない患者が非常に多く認められます。そのため、治療に抵抗したり、入院生活に支障が出てきたりして初めて、医療従事者はその患者さんが認知症の疑いがあると気付くということになります。また家族も、一人暮らしや、老老介護の場合は特に、認知症であるもしくは 認知症の疑いがあると気付かず、入院時に患者さんに付き添ってきた息子さんや娘さんが初めて認知症ではないかと気付く事も多くなっています。認知症をcommon diseaseだと認識できておらず、その治療やケアに対して不慣れな医療従事者も多く、担当の患者が認知症疑いとなると途端にどうしたらいいか分からなくなってしまうことがあります。

入院時における認知症のスクリーニング検査の重要性

入院患者における、高齢者の割合が多いという事実、そして今後もさらに高齢者の割合が増加するという状況では、まず、入院時に、認知症のスクリーニングを行うことが必要です。血圧や脈を測ったり、胸部レントゲンや心電図の検査をしたりするのと同様に、入院患者さんの認知機能(いわゆる高度脳機能)をしっかり把握しておくことは、その後の治療をしていく上で非常に大事なことです。さらに、入院中に治療経過の中で病棟看護師、担当医師などからの認知症の疑いがあるという申し出があった場合、院内でそれをどのように受け止め、認知症を診断し、同時に治療を行い、ケアを継続して行ったらいいのか、ということをあらかじめ決めておく必要があります。しかし、当院のような地方の中小病院では認知症の確定診断に至るのに必要な専門医(精神科医など)が常駐していない事も多いと思います。そのため、入院となった疾患の治療に支障を来したり、入院生活そのものに支障を来す場合に、専門医ではない主治医が手探りで治療にあたり、投薬により症状を抑え過ぎて過鎮静になったり、また、投薬が不適切で症状をさらに悪化させたりする事も多々認められます。

当院では、一昨年の4月から近隣の精神科の病院と協力し、毎週金曜日に精神科の専門医に診療に来てもらっています。目的は、緩和医療において精神科医にコンサルトしやすくするのが目的でした。ただし、今後は、病棟スタッフ、認知症サポート医、精神科医の三者で協力して病院内で一番多いcommon diseaseである認知症に向かっていかなければならないと考えています。まずは院内で、認知症患者さんを拾い上げ、スムーズにケアにつなげていく体制(いわゆる認知症ケアパス)を構築し、多職種で関わり合っていかなければならないと考えています。

 

 

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