2022

07/25

マイナンバーカードの健康保険証利用

小黒 佳代子
株式会社メディカル・プロフィックス 取締役、株式会社ファーマ・プラス 取締役
一般社団法人 保険薬局経営者連合会 副会長

薬剤師のお仕事(14)

事務作業の負担軽減につながる

2022年4月の診療報酬改定、調剤報酬改定ではマイナンバーカードによる資格確認の利用が始まり、マスコミ報道でも話題となっています。もともとマイナンバーは2015年に始まり、住民票を有する国民全てに12桁のマイナンバー(個人番号)が通知されました。マイナンバーは社会保障、税、災害対策の分野で効率的に情報を管理し、複数の機関が保有する個人の情報が同一人の情報であることを確認するために活用されることを目的としており、税金の申告ではすでに身近に感じていらっしゃる方も多いでしょう。マイナンバーカードはコンビニエンスストアで住民票の交付などの行政サービスを受けられるなど、便利なカードですが、さらに2021年10月から健康保険証としても使用できるようになりました。

マイナンバーカードのアプリより保険情報を紐付けておけば、健康保険証を持っていなくても医療機関でマイナンバーカードを健康保険証として使用することができます。例えば転職した時にも保険の変更が完了していれば、健康保険証が手元に届いていなくてもマイナンバーカードを使用して医師に受診することができるという利便性もあります。

医療費として患者さんが医療機関や薬局で支払う自己負担分は通常は3割、高齢者は1割で、残りは社会保障費や公費で賄われており、それを請求するために私たち医療機関や薬局は毎月レセプト請求という作業を行っています。患者さんの生年月日や保険情報によって患者さんと治療内容を紐付けて請求するのですが、これらの情報が正しいかどうかを社会保険診療報酬支払基金などで確認し、さらに内容が保険医療として正しく請求されているかを審査し、医療機関や薬局に支払われます。誤りがある場合には医療機関に返戻され、確認と修正をして再請求しなければなりません。この返戻のうち、保険情報の誤りによる返戻は年間約900万件(平成18年医療保険被保険者資格確認検討会のとりまとめ資料(厚生労働省)より)もあり、そのうち医療機関や薬局による保険情報の転記ミスと思われるものが4割、転職などで使えなくなった保険証のままに請求してしまったものが5割あると報告されております。

今年度から始まったオンライン資格確認は、これらの事務作業を解消するための施策として期待されており、この導入に向けたマイナンバーの読み取り機の設置に関しては、厚生労働省から医療機関、薬局に補助金を支払い導入が勧められてきましたが、設置機器の導入は全国的にはまだ半分にも達していません。また、国民へのマイナンバーの普及も十分ではありません。私の周囲の医療機関や薬局でも、マイナンバー読み取り機については、まだよく分からないから止めておこうという声が多くあります。

今年度の診療報酬、調剤報酬ではマイナンバー普及のために、マイナンバー読み取り機器を導入した医療機関については、それを利用した場合の診療報酬、調剤報酬が新設されました。医療機関では検査や薬剤情報などをマイナンバーカードの情報として利用して治療に当たった場合、医療費として初診の際は70 円、再診の際は40円、薬局では30円が報酬として支払われ、これらの情報を入手できない場合でも医療機関では30円、薬局では3カ月に1回10円の報酬を令和6年3月末日まで請求することができ、それぞれ患者さんにも自己負担がかかります。補助金があったとはいえ、マイナンバー読み取り機設置のための医療機関内のインターネットなどの整備などに費用もかかりるので導入した医療機関にとっては大変助かりますが、国民目線から見たら、マイナンバーを持っている人にも持っていない人にも費用がかかるということは納得がいかないようです。

日本は全国民が公平に医療を受けられる国民皆保険制度を持っており、それを維持するために大変な作業が行われております。マイナンバーカードの取得に関しては国民の自由として使用しない人がいても良いと思いますが、そのために事務作業が発生することに関して負担を強いられるのは仕方がないのではないでしょうか。

マイナンバーカード利用によるメリットと重要な目的とは

先日、当薬局でジェネリック医薬品の説明の際に「ご協力によって、皆さんのお孫さん、ひ孫さんの代まで保険医療が続くことにつながります」と説明したそうですが、その患者さんが医師に「薬局でジェネリック医薬品を使わないのは非国民と言われた」と訴え、医師から当薬局のスタッフがお叱りを受けたと報告がありました。患者さんが気分を害されたのは事実かもしれませんが、医療費の削減は今や国民の義務だと考えます。マイナンバーカードによって人為的なミスが無くなり、それによる事務作業軽減に協力することも同様ではないでしょうか。マイナンバーカードは保険情報だけでなく、他の医療機関での治療方法が分かることによって、重複する検査の実施や薬の相互作用による被害を減らすことも重要な目的となっています。マイナンバーカードの利用によるメリットを医療機関と薬局とが協力して患者さんに示していけることが大切だと考えます。

 

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