2021

09/15

「地域で求められる外科医」は、何でもしてくれる医師 !?

  • 地域医療

  • 北海道

横山 和之
社会福祉法人北海道社会事業協会小樽病院 
診療部長 兼 岩内病院・副院長
 

ドクターズプラザ2021年9月号掲載

地域医療・北海道(42)

高齢化が進む医療圏での活動

今年度4月から少し働く環境が変わったので、自分の紹介を兼ねて地域医療について書きたいと思います。

私は北海道大学の消化器外科II(平野聡教授、以下二外科)という、大学の医局に所属しています。今まで、大学の医局の人事で北海道各地の大小関連病院を行き来しながら、卒後14〜20年目の7年間は、北海道社会事業協会余市病院(以下、余市病院)で田舎の外科医として勤務し、平成29年度4月から現在迄、同会小樽病院(以下、小樽病院)で地方都市の外科医として勤務しています。さらに今年度4月からは小樽病院の勤務も続けながら同会岩内病院(以下、岩内病院)で田舎の病院の副院長を兼務しています。つまり、地域医療を担う「田舎の外科医」⇒高度に高齢化の進んだ「地方都市の中小病院の外科医」、さらに「中小病院の外科医」に加え、「田舎の外科医と病院管理者」となり、いわゆる“地域医療”にドップリ関わっています。

その“地域医療”について、これまで勤務した病院と現在、勤務している病院の役割と活動を振り返り、私の考えを述べたいと思います。

①余市病院の役割と活動

余市病院は北海道北後志(人口3万人)を診療圏とする172床の地方病院であり、急性期の患者を受け入れ、入院加療する唯一の病院です。私が勤務していた時は、外科医3人、整形外科医1人、小児科医1人でのスタートで、常勤の内科医が不在でした。昔から勤務していた高齢の内科医が1人いましたが、他は総引き上げという状態でした。そこでの外科医の役割は、外科診療、救急医療、総合診療、外科教育(外科研修医)、 地域医療教育(初期研修医の地域医療研修)、さらに学生実習(北海道大学、札幌医科大学)も受け入れ、“二外科”の強力なバックアップのもと外科医の枠を飛び越え医師としての総合力を発揮し地域に貢献することです。

②小樽病院の役割と活動

小樽病院の位置する小樽市の高齢化率は40.7%であり、超高齢化が進んでいます。同院では常勤の外科医の5人で、500件を超える外科手術(乳腺呼吸器消化器など)を行っています。手術患者に対するチーム医療を先導するために、外科医が自らDST(外科医が認知症サポート医)、緩和医療チーム (外科医が副委員長)、周術期管理チーム(麻酔科ではなく外科医が主導)、嚥下チーム(VEなど嚥下評価を外科医自ら施行)、NST(外科医がチェアマン)、せん妄対策チーム(DSTと周術期管理チームで合同)、ベッドコントロールチーム(外科の副院長が主体)の中心となり活動しています。

③岩内病院の役割と活動

岩内病院は北海道西後志(人口3万人)を医療圏とする172床の地方病院であり、急性期の患者を受け入れ、入院加療する唯一の病院です。また、北海道唯一の泊原子力発電所が位置する泊村のいわゆる圏内唯一の急性期病院です。常勤医は、外科医1人、内科医3人、小児科医1人の計5人です。“二外科”のバックアップで週3回の外来診療と週末の日当直を大学からの派遣医で補っています。外科医は派遣の医師も含めて外科医の範疇を超えた“総合診療科”としての役割も担っています。

私は今年度4月より副院長を兼務することになり、岩内病院で診察し、手術適応のある患者は緊急・定期にかかわらず、小樽病院で手術・入院加療を行っています。また、「小樽病院」、「余市病院」、「岩内病院」の3病院で人的な交流(医師を含めた職員の派遣)も推進し地域医療を大きな枠組みで支える方策を模索しています。このように、地域医療における外科医は自分の医師としての可能性を限定せずに、揺るぎない“二外科”所属の外科医としての基盤を軸にして、地域医療に貢献できるユーティリティードクターを目指すことが求められていると思います。私は外科医にこそ、その可能性が大いにあると思っています。

しかし昨今、住民のニーズにファーストで応えようとしていない外科系の学会や大学も見受けられます。私は医療費を払っている住民の皆さんがやってほしいことに応えることが、プロの医師だと思います。地域医療を支える外科医がやりたいことをやっていくのではなく、住民が外科医に望むことを推進するのが最も大事だと考えます。学会や大学が自分の組織のメンバーの外科医ファースト(最近は研修医ファーストでもある)ではなく、地域の住民を含めた医療を受ける全ての人のニーズに応える住民ファーストの視点で、リーダーシップをとるべきだと思います。私はそうした思いを持ちながら、今後も地域住民のための医療提供をしていきたいと思っています。

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