2026

10/05

―助産師を育てる―

  • 助産師のお仕事

杉田 理恵子
東京家政大学健康科学部看護学科准教授

助産師のお仕事(8) 最終回

今年も地震や豪雨など大きな災害が続いています(本稿執筆時点)。災害に関する問題として避難所での暮らしが度々、二ユースなどで取り上げられています。テレビ画面で災害対応の医師や看護師の活動の様子を目にしたことがあると思いますが、実は助産師も災害時には避難所や被災地域の病院で、妊娠中や産後の女性を中心に助産ケアを行っています。災害医療は、これまでの経験や研究の積み重ねにより、ますますの発展が期待されている分野です。災害を専門とする看護師や助産師も増えていますので、活動内容などを詳しく知りたい方は日本看護協会の「災害支援ナース特設サイト」や日本助産師会のホームページにある「災害支援活動」などで確認してみてください。

今回は、助産師が専門職としての自律を保つための役割と責務を果たすために必要とされている、後輩助産師の育成に関してお話したいと思います。

ここでお話する後輩助産師とは、助産師課程の学生はもちろんですが、国家試験に合格し免許を取得した後の助産師も含まれます。具体的には、助産師を養成する教育課程と、助産師になった後に病院などの職場で受けるOJT(On the Job Training)やOFF-JT(Off the Job Training)を中心に紹介したいと思います。

多様な助産師課程

まずは助産師になるための教育課程についてです。助産師国家試験の受験資格を得るためには、国や都道府県により指定された助産師養成所や「指定学校」で1年以上助産学を修めることが必要です。国内の看護師・助産師教育課程は複数あって、助産師になるといっても、高校卒業後に看護専門学校や大学を卒業し看護師免許を取得した後に就職せずに助産師養成学校や大学の専攻科や大学院に進学するコース、看護師としての業務経験を積んでから助産師養成学校や大学の専攻科、大学院に進学するコースのどちらかを選択することが可能です。

また、助産師養成所いわゆる「助産師学校」や大学の専攻科の多くは1年課程に対し、大学院では2年間の修士課程になるため、学修期間に違いがあります。どちらを選択するかは、助産師になりたいと考えたその時点での状況によって異なります。自分にはどのコースが合うのかをよく検討した上で、受験してみてはいかがでしょうか。

助産師になるためのコースには複数の選択肢があるため、助産師学生の年齢や生活背景、社会経験などは一人一人異なります。そのため、学生の中には出産や子育ての経験者がいる場合も珍しくはありません。私自身は、看護学校で看護師免許を取得後に短大の助産専攻科に進学して助産師免許を取得しました。当時、国内の出産数は120万件を超えていて、同期の学生が21名でした。学生の中には産科病棟で看護師として数年の業務経験のある人、看護師の業務経験がある上に実際に助産院での出産経験がある人、そして私のように看護師の業務経験が無く、看護学校などを卒業してそのまま進学してきた人の3形態に分かれていました。そのうち業務経験がある人が70%を占めているという状況でした。

入学した直後は、同期といえども業務経験のある人たちの物の見方や考え方と、学生の経験しかない自分との間には差があり過ぎるように感じて、自分に自信が持てなかったり焦燥感に駆り立てられたりすることも多々ありました。しかし、実際に授業を受けたり実習が始まったりする頃には、助産師学生として同じ経験を得ることで、業務経験のある人たちとも打ち解けて学び合っていました。

さまざまな背景を持った学生の教育と他者理解

現在、私が勤務している大学では看護学科に在籍中に助産師課程を選択し、講義と実習で必要単位を取得した後に、助産師国家試験を受けて卒業することになります。そのため、多くの学生が20歳代前半までの一般的な大学生を対象としています。このような場合、助産師課程の教育を行う上で、学生の知識や経験は共通している部分が多いので講義や実習での教育や指導方法も一様になりますが、助産師学校や大学の専攻科での教育は学生の多様な背景を考慮しなければなりません。多様な背景を持つ学生への教育は、一見すると学習内容にばらつきが生じる可能性や、細やかな支援が必要で教育方法が複雑になりそうに思えます。しかし、社会が変化する中で、女性一人一人を尊重した助産ケアのニーズは高まっています。そのような時代に女性の健康を支援する助産師を育成する上で、さまざまな背景を持つ学生の存在は、相互理解や協働といった学びに効果的に働き、貴重な教育環境を構成するものであると捉えることができます。このような学びは、女性やその家族にとって、その人らしい健康な生活を支援する助産師にとってはとても大切な要素でもあります。

他方で、私が勤務する大学の助産師課程は助産師学校や専攻科と比べると、学生間の個別な背景による違いから他者理解を深めることには限界があるかもしれません。女性一人一人の個別なニーズを理解し、相手を尊重する経験を得て相互理解を養う一つの方法として、本学ではキャンパス内に産後ケア事業を担う助産所を設置して、産後の母子に対する助産実習を行っています。産後ケアでの実習では施設を利用する女性への保健指導や乳児のケアの他に、子育て教室などのイベントを学生主催で開催することを一つの課題としています。イベント開催にはもちろん教員も支援しますが、テーマの決定から実施後のアンケート集計までを学生が行います。参加者の中には、分娩介助実習で担当した女性と家族も加わることがあります。イベントの企画から終了までの過程における学生同士や、参加者との交流など多くの経験が学生を育てる貴重な場となっているように思えます。

助産師の育成

さて、助産師の育成は助産師免許を取得した後も続きます。一般企業と同じように病院や施設ごとにOJTの機会がありますし、OFF-JTの機会を得ることも可能です。免許取得後の看護師・助産師の生涯学習には、その目安として日本看護協会の『生涯学習ガイドライン』や、『助産実践能力習熟段階(クリニカルラダー)』などが作成されています。職場となる病院や施設では、これらを参考にして独自の教育ラダーが設定されており、多くの場合は、就業年数により到達目標や技術・能力が示されています。また、大規模な病院では、助産師は看護師に比べて人数が少ないため、看護師と同じ教育ラダーが設定されている場合もあります。一方で、助産実践能力習熟段階を参考にした、助産師独自のOJTを設定している病院や施設もあります。

以下に「助産実践能力習熟段階」「助産実践能力習熟段階」「アドバンス助産師」「アドバンス助産師の認定」とは、どういうものなのか紹介したいと思います。

助産実践能力習熟段階(クリニカルラダー:Clinical Ladder of Competencies for Midwifery Practice);2012年に日本看護協会が全国規模で共有できる助産師のためのクリニカルラダーを開発し公表されたものです。CLoCMiP(クロップミップ)と称され2013年に助産実践能力習熟段階活用ガイドが作成されました。その後、複数年にわたる改訂を重ね現在では2022年版が公開されています。

CLoCMiP;助産師のレベルが新人からⅣまで区分されています。各レベルでの到達目標と習得すべき能力が具体的に記されており、レベルに応じた教育や研修も設定されています。CLoCMiPがOJTとして取り入れられていない場合には、職能団体や学会などでOFF-JTでの教育や研修が受けられるようになっています。レベルⅢに認証された助産師は助産実践能力が一定水準に達し、良質で安全な助産とケアを提供できる「アドバンス助産師」を称することができます。

アドバンス助産師;現在のところアドバンス助産師が助産ケアを行うことで、診療報酬などは加点されませんが、その存在が広まることで社会や組織が助産師の実践能力を客観視でき、女性にとってはより良い助産ケアを受けられる保証につながります。助産師免許を取得した後、多くの助産師がアドバンス助産師を目指して日々、自己研鑽に励んでいます。

皆さまが利用する病院などで、アドバンス助産師のマークが入ったバッジなどをユニホームに付けている助産師を見掛けることがあるかもしれません。

助産所評価;助産師の仕事の場には、病院や施設だけでなく助産所もあります。助産所で働く助産師もアドバンス助産師の認定を受ける環境は整っていますが、助産所機能の評価を受けられる制度もあります。この評価は、日本助産評価機構によるもので助産所の機能を評価するとともに、助産所における助産実践等の質の向上を図るものでもあります。

評価には、助産所における自己評価と機構による実地調査と評価により審議され基準に達していると判定された場合には、助産所評価認証施設を称することができます。助産所での出産を考えている方は、ホームページなどを活用してどんな助産所なのかを確認してみることをお勧めします。

これまで助産師の仕事について皆さまにご理解いただけるように、より多くの視点から紹介してきたつもりですがいかがだったでしょうか? 助産師の仕事を海外との比較などもしていくと、女性の健康や出産・子育てに対するその国の考え方を知ることもできます。出産や子育てに直接関わりがないと思ってらっしゃる方にとっても、この連載を通して日本で働く助産師を少しでも身近に感じることができたと思っていただければ幸いです。

2年間、拙い文章にお付き合いいただきありがとうございました。

執筆を終えて

助産師課程における助産師の育成は、より良い助産師教育のために各教育機関でさまざまな方法で行われています。私が学生の頃には年間出生数が120万件以上あり、分娩介助実習の期間でも1人10件以上の介助につくことが可能な、恵まれた環境で学習できる時代でした。少子化が長引く現代の助産師学生は、出産に立ち会う機会が限られ、実習期間も長時間に及ぶなど大変な苦労が伴う状況にありますが、教員は、学生が限られた学習環境の中でも女性一人一人に向き合い、その人らしい助産ケアを提供する能力が習得できるように授業や実習指導に励み、教育方法の研究開発に取り組んでいます。将来、助産師になりたいと思う方、妊娠や出産、子育てなどで助産師と関わりのある方、皆さまが生き生きと日々の生活が送れるように共に歩んで行きたいと思っています。

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