2024

12/01

親に良かれと思い込んで選択してしまった、残念な介護事例

  • 介護

川内 潤
NPO法人となりのかいご・代表理事

隣の介護(33)

企業に出張しての介護相談で、子どもの視点だけで親に良かれと思い込んでいる介護を選択してしまう方が少なくありません。そういった相談者に、今回紹介する事例などを挙げて、冷静な視点で本当にその選択が最適かどうかを、改めて考えてもらうことが少なくありません。

月100万円で、母親に24時間ヘルパーを付けたAさん

Aさんが同居している70代で要支援2の母親が、転倒を繰り返すようになりました。Aさん母親は転倒で骨折し、寝たきりになることを心配していました。一方でAさんの仕事はリモートではできず、母親を見守ることは難しい状況です。仕事に集中するために睡眠時間の確保も必要で、夜間に何度も起きる母親の対応に限界を感じていました。そこで、預貯金を切り崩しながら月100万円ほどかけて、母親に24時間の住み込みのヘルパーを付けました。

Aさんの母親は、庭いじりや手芸などの趣味を持ち、自分で買い物に行き料理をしていました。住み込みのヘルパーが来るようになって数カ月後、母親は趣味も料理もできなくなりました。「母を転ばせないように!」というAさんの強い要望のために、母親の行動を先回りして、全てヘルパーが行っていたためです。母親はソファーかベッドで、ぼーっとしている時間が多くなりました。その結果、介護状態があっという間に悪化してしまい、要支援2から要介護3の認定を受けることになったのです。

お金をかければ良い介護ができるとは限らない

Aさんは金銭的に余裕があったため、住み込みのヘルパーの利用が選択できました。周りからも「親にそこまでお金をかけられるのは、大変な親孝行だ」と称賛され、誰も止めてくれませんでした。

しかし、Aさんの母親は大切な「生きがい」を失ってしまいました。冷静な視点で考えると、多額のお金をかけて生活の質を落としてしまったのです。見方を変えれば、金銭的余裕がなく、介護保険による介護サービスを適切に利用していればこういう結果にはならなったでしょう。

残念ながら、家族介護の不安はどんなにお金をかけても解消することはできません。重要なのは、老いてできなくなることが増えていく家族と無理なく付き合う距離感を維持することです。

Aさんは親のことを至近距離でしか考えられていませんでした。「母親はなぜ転倒しても買い物に行こうとするのか」など、リスクがあっても得られた生きがいに着目できる距離感を大切にするべきでした。リスクばかりに着目すれば、不安だけが強くなり目標や目的が見えない解決方法を選択してしまう危険があるのです。

要介護の父親と認知症の母親が同じ施設への入所を決めたBさん

Bさんの父親は脳梗塞の後遺症から右半身に麻痺が残り、要介護状態になってしまいました。母親が自宅で介護をしていましたが、最近、母親に認知症の症状が見られるようになりました。Bさんは遠方で暮らし、母親が父親の介護を続けることは難しいと考え、両親の介護をしてくれる施設を探すことに決めました。

夫婦が一緒に入居することの注意点

Bさんのように、必要に迫られて夫婦一緒に入居することを決断する方がほとんどです。最後まで一緒にいさせてあげたいと思える夫婦関係は素晴らしいものですが、施設での同居生活には注意しなければならない点があります。

そもそも、夫婦が同じ居室へ入居できる施設は公的施設にはないため、民間の施設の中から探すことが前提となります。民間の施設にも「夫婦部屋」の数が少ないため、すぐに入居するということは難しいかもしれません。民間の施設は、公的施設に比べて高額になるので、両親に金銭的な余裕がなければ「夫婦部屋」に固執せず施設を探しましょう。

Bさんの両親のように、夫婦どちらにも介護が必要な場合は、1つの施設で全く異なるサポートを受ける必要があります。夫婦同室で適切なケアが受けられるのかという点も確認する必要があるでしょう。

また、適切なサポートがあれば母親はまだ1人で生活できるのに、その機会を失うことにもなります。施設では、食事の用意や洗濯・掃除などの生活全般を担ってくれるため、Bさんの母親にとっては過剰なサービスとなり、認知症の症状を悪化させる可能性もあります。

その選択が本当に最適なのか冷静に考える

介護を必要としている人が何を大切にしているのかで、介護における最適な選択肢はそれぞれに変わってきます。親のことを思って子どもが選んだ選択肢であっても、思い込みを捨てて、それが本当に最適なのかと冷静に考えることが重要になります。

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