2024

10/04

自覚症状のない病気を侮ってはいけない‼

  • 小児の病気

鈴木 繁
社会福祉法人聖隷福祉事業団聖隷佐倉市民病院
小児科副部長兼臨床研修センター長

小児の病気②/小児検尿のお話

世界でも数少ない学校検尿制度

小学校に入学すると4月と5月に検尿が行われ、血尿や蛋白尿、尿糖が続く場合は三次検尿として医療機関で検査を受けるよう通知が来ます。これは学校検尿(学童検尿)といわれ、小児腎疾患の早期発見を目的に1974年に学校保健法で定められましたが、日本全国の小中学生に対し公費で行われる世界でも数少ない、世界に誇れる検尿制度です。

私たちの腎臓は左右背部に1個ずつあり、体内の水分調節や老廃物の排泄以外にもビタミンDを活性化し骨生成を助けたり、エリスロポエチンという造血ホルモンを分泌したりとさまざまな機能を持っています。腎臓の機能が少しずつ悪くなっても症状として現れることは少ないので、検尿で早期発見することが大切です。学校検尿制度が開始となってから、慢性腎炎による腎不全患者数は格段に減少しました。

小児期に腎機能が低下し腎不全に至る原疾患はさまざまですが、腎尿路奇形に伴う先天性腎疾患が約半数、IgA腎症に代表される慢性腎炎が約4割を占めます。3歳検尿は主に腎尿路奇形を発見するための検査であり、学校検尿は慢性腎炎を発見するために行いますので少し意味合いが異なります。3歳児検尿で慢性腎炎が見つかることは非常にまれです。

早期発見するかしないか? で人生を左右する

学校検尿における検尿異常について、血尿単独、蛋白尿単独、血尿+蛋白尿に分けてみます。血尿単独は検尿異常の中で最も頻度が高いのですが、病気ではない頻度も高いことが特徴です。先天的な血尿で程度も軽く、家族も血尿のみを指摘されているなどの場合は体質性の血尿(病気ではない)がほとんどです。しかし腎不全の家族歴があったり、血尿以外の尿異常を伴うまたは経過観察中に他の尿異常が出現してくる場合は慎重に判断します。まれに泌尿器科的疾患(結石、腎や膀胱の腫瘍など)が原因となることがあります。

蛋白尿単独の場合、起立性(体位性)蛋白尿といった病的な根拠のないものも多いですが、慢性腎炎の初期をみている可能性もあり定期的な観察が必要です。経過観察中に血尿合併や浮腫などが見られたら、腎生検など詳しい検査が必要になることもあります。また先天性腎尿路奇形による蛋白尿では、蛋白量は微量でありながら腎機能がかなり落ちていることもあり、その場合腎機能低下によるその他の症状として低身長や貧血なども確認します。先天性腎尿路奇形を疑う場合はシンチグラム(核医学検査)や膀胱尿管逆流などの検査が有用であることもあります。血尿+蛋白尿は慢性腎炎を強く疑う所見ですので、しっかりと経過観察し適切な時期に腎生検などの検査を行います。

慢性腎炎の中で最も頻度が高いのはIgA腎症という腎炎です。このIgA腎症の初発症状は血尿+蛋白尿ですが症例の90%以上で自覚症状はありません。IgA腎症の発見動機は70%以上が学校検尿だったというデータがあります。小児期末期腎不全の原因疾患の10~15%はIgA腎症ですので、学校検尿でいかに早く発見するかがその後の人生を大きく左右します。

三次検尿受診の際に、「昨年も指摘を受けたのですが、自覚症状がないので受診しませんでした」とおっしゃる保護者の方がたまにいらっしゃいます。自覚症状のない病気を早期発見するために実施していますので、通知が来たら必ず指定された医療機関を受診してください。

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