2024

08/28

漢方薬の選び方

小黒 佳代子
株式会社ファーマ・プラス 専務取締役、株式会社メディカル・プロフィックス 取締役
一般社団法人 保険薬局経営者連合会 副会長

新・薬の話(2)

「証」によって選ぶ漢方薬は変わる

毎日の会話の中で「私は冷え性なの」「僕は汗っかきなんだ」というような体質についてお話しされることは日常的なものだと思います。漢方では、そのような体質をオリジナルの診断方法によって分類し、漢方薬を選びます。それを「証(しょう)」といい、その人の体質や体力、抵抗力などの個人差を表すものです。証はその人の体質や抵抗力、体力を表すもので、現れる症状の個人差を示すものです。この「証」によって選ぶ漢方薬が変わってきます。妊活は漢方薬の得意分野ですが、同じ妊活のための漢方薬でも、それぞれ選ばれるものが変わってくるのはこのためです。このように同じ症状でも選ばれる漢方薬が違ってくるということは、同じ症状だからといって、他の人と同じ漢方薬を服用しても効果がないこともあるということです。

東洋医学の気・血・水

体の状態や治療法を見つけ出す方法の一つとして「証」と同様に用いられるのが「気血水(きけつすい)」です。東洋医学では、人の体を構成する基本的な要素は気・血・水だと考えています。

気はエネルギー、血は体の中を流れる赤い液体(血液)、水は体の中を流れる血以外の液体を指し、どれかの成分が不足したり、停滞したりして、この3つの要素のバランスが崩れると体に不調が起きると考えています。イメージはしやすいのですが、この言葉が出てきたあたりから漢方が分かりにくいと感じられる方もいらっしゃるでしょう。

漢方薬を選ぶ際の「気」は人間が生きていく上でとても大切な要素の一つと考えられています。気が不足するとエネルギー不足になるため、体が疲れやすくなったりやる気が起こらなくなったりします。「気」は気持ちの「気」と勘違いされやすいので、私はよく「漢方薬の『気』は機能の『機』と考えると分かりやすいです」と説明します。エネルギー不足によって体の機能が低下した状態が「気虚」、それによって気持ちが滅入った状態「気滞」と考えると分かりやすいですね。「気」は生まれながらに受け継いだものと、食事などの環境によって得られるものがあります。

「血(けつ)」や「水(すい)」は「気」に比べるとイメージしやすいと思います。「血」は体の中を流れる赤い液体のことで、西洋医学でいう血液を含む栄養物質を指しています。「血」が十分に体に巡っていると、顔色は明るく、肌や髪の毛も潤いがあって良い状態になりますが、「血」が不足(血虚)すると栄養不足になって肌の艶も悪くなりますし、「血」の流れが滞ると肩こりや腰痛が起きたりします。

「水(すい)」とは血液以外の体の中の水分のことで、「水」は、体全体に水分を充実させるため、肌・関節・臓腑などに潤いを与えます。「水」は体の中の余分な熱を抑え、汗や尿として排出する働きもあります。体の中の「水」が不足すると乾燥するため、喉が乾いたり、肌荒れが起きたり、便秘になったりすることもあります。逆に体の中の「水」の流れが滞るとむくんだり、下痢を起こしたり、鼻水が出たりすることもあります。

「気血水」は食事やストレスなどの影響を受けやすく、「証」と同時に現在の状態を見極めて漢方薬を選択する上で重要な指標となるのです。そのため、漢方薬を選ぶためにはヒアリングが重要です。血圧や脈の状態、舌の色、肌の質などの身体的なことと、便や尿の量や睡眠、食事状況などのヒアリングが必要です。

「証」を見極め、「気血水」を考慮

その人の状態(体質・体力・抵抗力・症状の現れ方などの個人差)を表す「証」を見極め、「気血水」を考慮して漢方薬を選択します。したがって、同じ症状でも、自分の「証」と他の人の「証」が違えば、当然、処方される漢方薬も違ってきます。自分が服用している漢方薬を同じ症状だからといって、他の人が飲んでも効果が期待できない可能性があるのは、こういった理由からなのです。

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