2025

01/14

漢方薬の選び方②

小黒 佳代子
株式会社ファーマ・プラス 専務取締役、株式会社メディカル・プロフィックス 取締役
一般社団法人 保険薬局経営者連合会 副会長

新・薬の話(3)

気血水とそれぞれが体調に及ぼす影響

前回は、カラダの状態や治療法を見つけ出す方法の一つとして「証」や「気血水(きけつすい)」と、それぞれが体調不良に及ぼす影響についてお伝えしました。今回はそれに対応する漢方方剤をお示しし、漢方に対する理解を深めていただきたいと思います。

「気虚」の方剤

前回のコラムで漢方薬を選ぶ際は「漢方薬の『気』は機能の『機』と考えると分かりやすい」(*1)とお伝えしました。この「気虚」に対する基本的な方剤が四君子湯です。人参という滋養強壮によく知られている生薬のほかに、炙甘草(しゃかんぞう)、白朮(びゃくじゅつ)に茯苓(ぶくりょう)という4種類の生薬からなる方剤です。穏やかな君子のように効果があるといわれて命名されています。現在はこれを単独で使うことはほとんどありませんが、この4種類の組み合わせは気虚に対する基本の組み合わせして覚えておいていただきたいと思います。白朮は、利水作用もあり、余分な水を抜いて人参の作用で温めながら気を補う気虚に対する基本方剤で、よく胃薬などで聞かれる六君子湯(りっくんしとう)や気管支炎などに使えわれる二陳湯(にちんとう)にもこれらの生薬が含まれています。

「血虚」の方剤

「血(けつ)」はカラダの中を流れる赤い液体のことで、西洋医学でいう血液を含む栄養物質を指しています。この血虚の基本方剤は四物湯(しもつとう)です。「血」を補う補血薬の当帰、芍薬、地黄と、瘀(お)血を除いて血流を良くする駆瘀血剤(くおけつざい)である川芎(せんきゅう)の4つの生薬で構成されています。

漢方薬では病は瘀血が原因であると考えられています。瘀血という言葉から古い血、悪い血、滞った血……とイメージできると思います。古来では瘀血に対する漢方薬は婦人科領域の出血に対して使用されることが多かったのですが、瘀血の考え方は時代とともに変わっており、現代では悪いものが溜まっている状態、と考えると分かりやすいと思います。ですから、生活習慣病やがん、痛みなどさまざまな病気に関係しており、慢性疾患においては、駆瘀血薬を上手に使うことが重要です。また婦人科によく使用される漢方薬の中には駆瘀血薬が多く含まれています。

四物湯も単独では使用することは少なく、別の生薬を足したり漢方を合わせたりすることが多いのですが、私は、単独でしもやけの患者さんにお勧めしたことがあります。生薬は一般的には構成成分が少ないほどシャープに効くといわれており、この川芎という駆瘀血剤で瘀血を取りながら、補血薬の当帰や芍薬で血流を良くして地黄でしっとりさせるというシンプルな処方が良かったのだと思います。

「水滞」の方剤

「水(すい)」は「湿」といわれることも多く、体の中の水の動きを整えるのが利水剤です。水滞とは浮腫のように目に見える水分の貯留と思われがちですが、「湿」といわれているように、はっきりと目に見えないものの貯留もあります。「水」は血液以外の水分、リンパ液などを指しますので、そうなる水滞は滞った水、過剰な水分の貯留ということになり、浮腫、むくみや胸水や腹水など、利水剤で改善するということもご理解いただけると思います。

よく使用される利水剤の例として五苓散(ごれいさん)がありますが、利水作用をもつ、茯苓、沢瀉(たくしゃ)、猪苓(ちょれい)、補気作用もある白朮が入っていて、浮腫一般に用いられます。それだけでなく、胃腸内の水分を吸収する作用がありますので、下痢や、嘔吐、めまい、頭痛にも用いることができます。二日酔い防止にもなりますので、忘年会シーズンにもお勧めです。

漢方で身体のバランスを元に戻す

体は常にバランスを保とうとしており、何かの原因でバランスが崩れると病気になります。身体の外から入ってくる細菌やウィルスなど邪気が、本来の身体の正気、生きる力より強ければ病気になってしまうということです。ですから、身体のバランスを元に戻すことが漢方による治療の原則です。

「気血水(きけつすい)」も同様で、足りないものを補ったり、排出したり、正しい位置に戻したり……漢方薬は単独で使用するだけでなく、西洋薬と組み合わせることで、ストレス社会の現代に相応しいお薬だと思います。

*1:2024年8月28日公開「新・薬の話(2)」を参照

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