2025

01/07

治療と仕事の両立支援へ取り組み始める!

  • 地域医療

  • 北海道

横山 和之
北海道社会事業協会 岩内病院 院長

地域医療・北海道(55)

両立支援のためのガイドラインをご存知ですか?

仕事を持ちながらも、何らかの病気を抱えてしまうというのは、どの世代でも、経験する可能性のあることだと思います。また、最近は、労働人口の減少のため、病気が治ってからではなく、病気の治療を続けながら、働いてもらうことに国は力を入れざるを得ません。その上、働く高齢者は今後もさらに増加していくため、悪性疾患、脳疾患、心臓疾患などの疾患を抱え治療している働く高齢者も同様に増えていきます。治療と仕事の両立の支援は避けることができない取り組みとなっています。

国は「独立行政法人労働者健康安全機構(以下、JOHAS)」で、以下のように治療就労両立支援事業として取り組んでいます。

「当機構では、すべての疾患を対象として、治療と仕事の両立支援に取り組んでいます。治療と仕事の両立とは、病気を抱えながらも働く意欲があり、全く元のとおりにはいかずとも、職場でこなすべき仕事に耐えうる能力のある労働者が、仕事を理由に治療機会を逃すことなく、また、治療を理由に職業生活の継続を妨げられることなく、適切な治療を受けながら、生き生きと就労を続けられることです」。

そして、JOHASでは全国の労災病院や治療就労両立支援センター、産業保健総合支援センターには、両立支援のための相談窓口を設けて、随時、治療と仕事の両立について相談を受け付けています。ただし、こういうサポートが受けられるということを、患者さんも、仕事先である事業所も、治療を実際に行っている病院(医師や看護師、社会福祉士など)も分かっていないことが多いのが実際です。もちろん、当院も、分かっている職員が産業医である自分自身だけであり、患者さんに情報提供を行ってはいませんでした。

厚生労働省は「事業場における仕事と職業生活の両立支援のためのガイドライン」を作成しています。そこでは、個別の治療と仕事の両立支援は、「両立支援を必要とする労働者からの申出」から始まるとなっています。つまり、“申出”がなければ何も始まらないということです。両立を支援してくれるいろいろなことが存在することが分かっていなければ支援が始まらないし、分かっていてもどう支援を受ければいいのか支援を申し出るにはどうしたらいいのかを知らないと、“申出”ができずに支援を受けられません。そもそも、仕事をしながら治療を続けるという選択肢があるということすらも啓発されていないことも多いと思います。治療と仕事の両立支援には、支援対象者である労働者に対して、実際に働いている会社(事業場)、産業医、実際に治療を行っている主治医がそれぞれ治療と仕事の両立を支援する用意があること、そして、支援を受けるにはどうしたら良いか、情報提供できるようにしておくことが必要です。

ガイイドラインでは事業場における実施前の準備として、下記の4つが挙げられています。

①事業者による基本方針等の表明と労働者への周知
②研修等による両立支援に関する意識啓発
③相談窓口の明確化等 労働者が安心して相談・申出できる相談窓口及び情報の取扱い等を明確化
④休暇・勤務制度の整備 両立支援のために利用できる休暇・勤務制度を検討・導入

【休暇制度】時間単位の年次有給休暇、傷病休暇・病気休暇
【勤務制度】短時間勤務制度、テレワーク、時差出勤制度、試し出勤制度

コーディネーターの役割

地域両立支援推進チームは、治療と仕事の両立支援を効果的に進めるために各都道府県などの下の労働局、自治体、関係団体などがネットワークを構築、それぞれが連携を図り、その支援の取り組みを推進するために設置された協議会です。ただし、それぞれのどの団体に相談したら良いかなどはある程度の知識や経験がないと当然難しいのが現実です。そのため、支援を受けるもしくは支援を受ける可能性のある患者(労働者)を患者の立場に立ってサポートする人が必要です。

その役割を担うのが、両立支援コーディネーターです。同・支援コーディネーターが治療就労両立支援チームの一員として、労働者(患者さん)、医療機関、事業場といった関係者間の仲介・調整のほか、治療方針、職場環境、社会資源等に関する情報の収集・整理などを実施する中心的な役割を担うということとなっています。JOHASでは両立支援コーディネーター基礎研修を開催しており同・支援コーディネーターの養成を行っています。

当院でも、抗がん剤治療など、継続的な治療が必要な患者さんや、治療開始時には就労されている患者さんが度々見られます。そのような方々に仕事と治療の両立という選択肢があり、その支援をさせていただく用意が事業場、当院自治体などにちゃんとあることを示したり、患者さんの立場になって一緒に考えたりしていくことが地域の病院にも必要です。そのため、すでに、今年に入って同・支援コーディネーターの研修を看護師1名、社会福祉士1名に受けていただき、さらに、看護師1名、社会福祉士1名に研修を受けてもらう予定です。彼らが中心となって、今後は、両立支援にも力を入れていくつもりです。

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