2026

11/09

緩和ケア病棟の現在地(1)─病棟の供給─

  • 緩和ケア

小田浩之(おだ こうじ)
日本緩和医療学会緩和医療専門医。日本緩和医療学会代議員・日本死の臨床研究会代議員。
一級建築士、技術士(都市計画)の資格を持つ異色の緩和ケア医。現在は緩和ケア病棟(設計)の研究のため、東京都立大学大学院都市環境科学研究科建築学域に在籍中。

「緩和ケア」の現状と課題(14)

コロナ禍が落ち着き、緩和ケア病棟にも元の日常が戻ってきたように見えます。しかし、それはいくつもの問題をはらむものでもあります。これからしばらく、緩和ケア病棟の現状を見ていきたいと思います。

緩和ケア病棟の普及

既報告によれば、全国の緩和ケア病棟は476施設とされています(注)。緩和ケア病棟が保険診療制度に位置付けられた1990年度は6施設でしたから、35年間でずいぶんと広がりました。緩和ケア病棟の年間死亡退院患者数は約6万5千人で、がん死亡患者の6人に1人は最後の時間を緩和ケア病棟で過ごしています。緩和ケア病棟がある医療圏では、緩和ケア病棟はがん患者にとって一般的な選択肢の一つになっています。

全国で、緩和ケア病棟のある医療圏の人口規模を調べてみたところ、人口24~25万人が緩和ケア病棟設置の目安であることが分かりました。欧州緩和ケア協会(EAPC)は、緩和ケア病棟の病床は人口100万人当たり80~100床あることを推奨しています。わが国の緩和ケア病棟の病床数は平均20床ですので、わが国を全体で見れば、大体この推奨圏内に入っているとみることができます。

先日、福岡県内のいくつかの病院を訪問しました。驚いたのは、急性期病院で緩和ケアチームを担当する複数の先生から、がん患者さんが抗がん剤治療を終えて終末期療養に移る際、「緩和ケア病棟を3カ所くらい見学に行ってもらい、気に入った病院に移ってもらう」というお話を聴いたことです。“自分で選べて、待たずに入れる”―緩和ケア病棟は遠くにあってハードルが高く、申し込んでもなかなか入れないという、私たちがこれまでに抱いていた緩和ケア病棟のイメージは、福岡県ではもはや昔話となっているようです。緩和ケア病棟は自分らしく過ごすための施設であって、また、がんは体調の変化が急なこともあって、スムーズな転院が必要なことが多いことを考えると、この水準が多くの地域に広がることが望ましいと思います。

新規供給の停滞

しかし、コロナ禍以降、緩和ケア病棟の新規供給は停滞しています。2020年からの4年間の緩和ケア病棟の開設状況を調査したところ、毎年の開設数はそれまでの半分となり、全国の緩和ケア病棟の総数も頭打ちとなっていました。私のいる北海道でも、2020年以降、新たな緩和ケア病棟の開設はない一方、2つの緩和ケア病棟が閉鎖されました。

そして特に問題なのが、医療圏人口が24万人に満たない過疎地域等における整備の遅れです。わが国の2次医療圏330地域のうち、半数を超える180医療圏は人口が24万人に達しておらず、実際に約4割の医療圏には緩和ケア病棟が開設されていません。全国の過疎地域を見ると2020年からの4年間の新たな開設は2施設だけで、そのうちの1施設は看護師の人員不足により一時閉鎖となりました。緩和ケア病棟の地域格差は広がり続けています。

緩和ケア病棟の施設構造にも問題が出ています。2020年以前の緩和ケア病棟は、病院の病棟建て替えや増築に合わせて設計されることが多かったのですが、2020年以降は、既存の病棟をそのまま改修して利用する「用途転換」型が大半となっています。緩和ケア病棟のための設計ではなくて既存建物をそのまま利用すれば、当然使い勝手に問題が生じます。よく目にするのが、元々4人部屋だった病室の真ん中に仕切りを入れて個室2つにしたタイプです。例えば柱間隔が6mに満たない(経済合理性を追求した)建物では、個室の間口(横幅)が3m未満となるので、そこに設置されるトイレの多くは車椅子利用や看護師介助が困難なものです。「緩和ケア病棟の病室でトイレが利用しづらい」―これは褒められたものではありません。

緩和ケア病棟が既存病棟の改修で供給されるようになった大きな原因は、全国の病院の経営状況の悪化と建築コストの高騰だと思われます。特に建築費の上昇は2021年頃から消費者物価を大きく上回り、病院経営を左右する診療報酬との乖離が年を追って大きくなっています。診療報酬は公定価格ですから、建築費の上昇に追い付くような引き上げは当面見込めません。

そしてもう一つの理由として、緩和ケア病棟の利用の仕方の変化も考えなければなりません。これについては次回、取り上げたいと思います。

 

(注)日本ホスピス緩和ケア協会調べ。https://www.hpcj.org/pdf/pcu_list.pdf

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